本因坊算砂

本因坊算砂

本因坊算砂（ほんいんぼう さんさ）は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した囲碁棋士です。永禄2年（1559年）に京都で生まれ、元和9年5月16日（1623年6月13日）に亡くなりました。本姓は加納、幼名は與三郎といいます。顕本法華宗寂光寺塔頭本因坊の僧侶であり、法名を日海と称しました。後に本因坊算砂と名乗り、江戸幕府から俸禄を受け、家元本因坊家の始祖となるとともに、碁打ち・将棋指しの最高位、連絡係に任ぜられ、家元制度の基礎を築きました。また、囲碁界において「一世名人」としても知られています。

生い立ちと出家

算砂は、舞楽宗家の加納與助の子として生まれました。8歳の時に叔父である寂光寺開山の日淵に弟子入りし、出家しました。仏教を修める傍ら、当時の強豪であった仙也に師事して囲碁を学びました。

織田信長との出会い

天正6年（1578年）、織田信長に「そちはまことの名人なり」と称揚されたとされています。この言葉が、現在も使われている「名人」という言葉の起源であるという説がありますが、実際には鎌倉時代の文献にも囲碁と雙六の「名人」に関する記述が見られます。ただし、信長が算砂を「名人」と呼んだという逸話は、算砂の才能を広く知らしめるものとなりました。

本能寺の変前夜の対局

天正10年（1582年）、本能寺の変の前夜、信長の御前で利玄と対局した際、珍しい「三コウ」という形が出現しました。その直後に信長が明智光秀に殺害されたことから、「三コウは不吉」という迷信が生まれましたが、これは後世の創作であるという説が有力です。棋譜には三コウが出現した手までは記録されていませんが、後の研究で三コウに至る手順が存在しうることが判明しています。

徳川家康との交流

天正15年（1587年）には、徳川家康が算砂を駿府に招いています。これは、家康の娘婿である奥平信昌が京都で算砂の囲碁の弟子となり、帰国の際に駿府へ連れてきたことがきっかけとされています。また、天正16年（1588年）には豊臣秀吉の御前で、算砂は利玄などの碁打ち衆と対局し、勝ち抜いて20石10人扶持を与えられました。この時、「碁之法度可申付候」と書かれた書状があり、これを碁所の始まりとする説もあります。

江戸幕府での活躍

慶長8年（1603年）に徳川家康が江戸に幕府を開くと、算砂は家康に招かれて一時江戸に赴きました。慶長11年（1606年）には、伊達政宗が家康を屋敷に招いた際、林利玄、中村道碩、大橋宗桂らとともに同道しています。慶長12年(1607年)には、大坂城において豊臣秀頼の御前で利玄と対局しています。

囲碁・将棋の発展

慶長13年（1608年）には、大橋宗桂と将棋の対局を行いました。これは将棋の最古の棋譜として知られています。同年には、日本初の囲碁出版物である『本因坊碁経』を刊行し、詰碁や手筋などを収録しました。慶長16年（1611年）には僧侶としての最高位である「法印」に叙せられています。慶長17年（1612年）には、幕府から算砂をはじめとする碁打ち衆、将棋衆の8名に俸禄が与えられ、算砂は利玄、宗桂とともに50石10人扶持を得ました。また、同年には将棋所を大橋宗桂に譲ったとされています。

晩年と死

元和9年（1623年）5月16日、算砂は後継の算悦の後見を弟子の道碩に託し、その生涯を閉じました。墓所は京都の寂光寺にあります。辞世の歌は「碁なりせば 劫（コウ）なと打ちて 生くべきに 死ぬるばかりは 手もなかりけり」です。

弟子

算砂には、以下のような弟子がいました。
中村道碩（井上家元祖）
安井算哲（安井家一世）
* 本因坊算悦

死後

文政5年（1822年）には、京都寂光寺で算砂法印200回忌追善法会が行われ、本因坊跡目丈和と在京の外山算節による記念碁が打たれました。大正12年（1923年）には、寂光寺で本因坊算砂300年祭の記念囲碁大会が開催されています。平成16年（2004年）には、第一回囲碁殿堂として顕彰されました。

算砂は、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という三人の天下人に対して、五子の手合割で対局したと伝えられています。


算砂は、囲碁界に大きな足跡を残し、その功績は後世にまで語り継がれています。

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