大橋宗桂 (9代)
九代大橋宗桂（くだい おおはし そうけい）は、江戸時代中後期に活躍した将棋指しです。将棋家元三家の一つである大橋本家の九代目当主であり、八世名人としても歴史に名を残しています。1744年（寛保4年）に生を受け、1799年9月13日（寛政11年8月14日）にその生涯を閉じました。
彼は将棋界の名家である伊藤家と大橋家、双方の血筋を引いています。五世名人二代伊藤宗印は祖父、七世名人三代伊藤宗看と贈名人初代伊藤看寿は叔父にあたります。父は八代大橋宗桂で、宗桂自身はその嫡男として生まれました。幼名は印寿と称していました。
宗桂の公式の舞台での活躍は早く、宝暦5年（1755年）、わずか12歳で幕府公式行事である御城将棋に初出仕しました。この時の対局相手は叔父の初代看寿で、飛車と香車を落とされた手合いながらも勝利を収め、早くからその才能を示しました。
宝暦10年（1760年）に初代看寿が、翌宝暦11年（1761年）には三代宗看が相次いで死去したことにより、将棋界の最高位である名人位は空位となります。この名人空位時代、宗桂は精力的に活動しました。宝暦13年（1763年）には、父である八代宗桂との親子対戦が御城将棋で行われました（右香落ちで敗北）。明和元年（1764年）には五段に昇段。この頃、伊藤家の五代伊藤宗印や大橋分家の五代大橋宗順といった、同世代の有力棋士たちと競い合う好敵手となり、将棋を愛好した将軍徳川家治の影響もあり、「御好」と呼ばれる将軍との対局などが盛んに行われ、将棋界は活況を呈しました。
安永3年（1774年）、父八代宗桂の死去に伴い、宗桂は家督を相続しました。この頃に九代大橋宗桂の名跡を襲名したとされますが、御城将棋の記録上はしばらく「印寿」の名で出仕を続けています。将軍家治の将棋の相手を務めた記録をまとめた『浚明院殿御実紀』にも、「大橋印寿」としてその名が記されています。
宗桂の時代、将棋界では他家でも世代交代が進みました。大橋分家では安永7年（1778年）に六代大橋宗英が、伊藤家では天明4年（1784年）に六代伊藤宗看が御城将棋に初出仕しています。
天明5年（1785年）には八段への昇段を果たし、この時期から御城将棋にも「宗桂」の名義で出仕するようになったと考えられています。天明6年（1786年）には、慣例に従い、将軍へ献上する詰将棋集『象戯図式』（将棋舞玉）を編纂・献上しました。天明8年（1788年）には、内弟子の長谷川宗銀を養子に迎えています。彼が後に十代大橋宗桂となります。
そして、寛政元年（1789年）、実に27年間もの長きにわたり空位であった名人位を継承し、当時としては高齢にあたる46歳で八世名人位に就きました。
名人襲位後も、宗桂は第一線で活躍しました。寛政2年（1790年）には、同時代の強豪である六代大橋宗英と平手と香落ちの手合いで対局し、平手戦で敗れましたが、この一局は後世に「稀世の名局」と称されるほどの内容であったと伝えられています。寛政9年（1797年）には、生涯最後の御城将棋に出仕しました。そして、寛政11年（1799年）に死去しました。法名は玉応院（または玉慶院）宗桂元奥日印です。
宗桂は御城将棋で34番、また「御好」でも30番の対局を行ったと記録されています。天明2年（1782年）10月26日には、将軍徳川家治と平手で対局した記録も現存しており、『御差将棋集』に収録されています。この棋譜では、後手の宗桂が当時としては珍しい横歩取り4五角という指し手を採用しましたが、家治が勝利を収めています。宗桂の棋風は進取的であり、当時あまり見られなかった振り飛車（美濃囲いや左美濃など）や、相居飛車におけるひねり飛車、あるいは現代の空中戦法にも通じるような独創的な手を積極的に試みたことが、彼の棋譜からうかがえます。その実力は、江戸後期の強豪棋士たちの評価を記した『将棋営中日記』においても、六代宗英、三代宗看、六代宗看に次ぐ第4位に位置づけられています。
宗桂の業績としては、定跡書である『将棊妙手』の編纂も挙げられます。この書は彼の没後、1815年に刊行されました。養子とした十代宗桂は、父の後を継いで名人位に就くことはなく、文政元年（1818年）に44歳で早世しています。
宗桂は筆まめな人物であったことでも知られており、現存する大橋家文書の多くは、五代宗桂、十一代宗桂と共に彼の手による文書が占めています。天明2年（1782年）からは五代伊藤宗印と共に幕府の「奥御用」を務めたことも分かっています。また、将棋を生業とする人々の地位向上や待遇改善にも並々ならぬ熱意を燃やした人物でした。度々、対局中の足袋の着用を願い出たり、「将棋所」という役職名を公的に認めさせようと幕府に働きかけたりしましたが、これらの願いは退けられ続けたものの、彼のこうした努力は、棋士の地位向上を目指す先駆的な試みであったと言えるでしょう。
彼は将棋界の名家である伊藤家と大橋家、双方の血筋を引いています。五世名人二代伊藤宗印は祖父、七世名人三代伊藤宗看と贈名人初代伊藤看寿は叔父にあたります。父は八代大橋宗桂で、宗桂自身はその嫡男として生まれました。幼名は印寿と称していました。
宗桂の公式の舞台での活躍は早く、宝暦5年（1755年）、わずか12歳で幕府公式行事である御城将棋に初出仕しました。この時の対局相手は叔父の初代看寿で、飛車と香車を落とされた手合いながらも勝利を収め、早くからその才能を示しました。
宝暦10年（1760年）に初代看寿が、翌宝暦11年（1761年）には三代宗看が相次いで死去したことにより、将棋界の最高位である名人位は空位となります。この名人空位時代、宗桂は精力的に活動しました。宝暦13年（1763年）には、父である八代宗桂との親子対戦が御城将棋で行われました（右香落ちで敗北）。明和元年（1764年）には五段に昇段。この頃、伊藤家の五代伊藤宗印や大橋分家の五代大橋宗順といった、同世代の有力棋士たちと競い合う好敵手となり、将棋を愛好した将軍徳川家治の影響もあり、「御好」と呼ばれる将軍との対局などが盛んに行われ、将棋界は活況を呈しました。
安永3年（1774年）、父八代宗桂の死去に伴い、宗桂は家督を相続しました。この頃に九代大橋宗桂の名跡を襲名したとされますが、御城将棋の記録上はしばらく「印寿」の名で出仕を続けています。将軍家治の将棋の相手を務めた記録をまとめた『浚明院殿御実紀』にも、「大橋印寿」としてその名が記されています。
宗桂の時代、将棋界では他家でも世代交代が進みました。大橋分家では安永7年（1778年）に六代大橋宗英が、伊藤家では天明4年（1784年）に六代伊藤宗看が御城将棋に初出仕しています。
天明5年（1785年）には八段への昇段を果たし、この時期から御城将棋にも「宗桂」の名義で出仕するようになったと考えられています。天明6年（1786年）には、慣例に従い、将軍へ献上する詰将棋集『象戯図式』（将棋舞玉）を編纂・献上しました。天明8年（1788年）には、内弟子の長谷川宗銀を養子に迎えています。彼が後に十代大橋宗桂となります。
そして、寛政元年（1789年）、実に27年間もの長きにわたり空位であった名人位を継承し、当時としては高齢にあたる46歳で八世名人位に就きました。
名人襲位後も、宗桂は第一線で活躍しました。寛政2年（1790年）には、同時代の強豪である六代大橋宗英と平手と香落ちの手合いで対局し、平手戦で敗れましたが、この一局は後世に「稀世の名局」と称されるほどの内容であったと伝えられています。寛政9年（1797年）には、生涯最後の御城将棋に出仕しました。そして、寛政11年（1799年）に死去しました。法名は玉応院（または玉慶院）宗桂元奥日印です。
宗桂は御城将棋で34番、また「御好」でも30番の対局を行ったと記録されています。天明2年（1782年）10月26日には、将軍徳川家治と平手で対局した記録も現存しており、『御差将棋集』に収録されています。この棋譜では、後手の宗桂が当時としては珍しい横歩取り4五角という指し手を採用しましたが、家治が勝利を収めています。宗桂の棋風は進取的であり、当時あまり見られなかった振り飛車（美濃囲いや左美濃など）や、相居飛車におけるひねり飛車、あるいは現代の空中戦法にも通じるような独創的な手を積極的に試みたことが、彼の棋譜からうかがえます。その実力は、江戸後期の強豪棋士たちの評価を記した『将棋営中日記』においても、六代宗英、三代宗看、六代宗看に次ぐ第4位に位置づけられています。
宗桂の業績としては、定跡書である『将棊妙手』の編纂も挙げられます。この書は彼の没後、1815年に刊行されました。養子とした十代宗桂は、父の後を継いで名人位に就くことはなく、文政元年（1818年）に44歳で早世しています。
宗桂は筆まめな人物であったことでも知られており、現存する大橋家文書の多くは、五代宗桂、十一代宗桂と共に彼の手による文書が占めています。天明2年（1782年）からは五代伊藤宗印と共に幕府の「奥御用」を務めたことも分かっています。また、将棋を生業とする人々の地位向上や待遇改善にも並々ならぬ熱意を燃やした人物でした。度々、対局中の足袋の着用を願い出たり、「将棋所」という役職名を公的に認めさせようと幕府に働きかけたりしましたが、これらの願いは退けられ続けたものの、彼のこうした努力は、棋士の地位向上を目指す先駆的な試みであったと言えるでしょう。
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