大正6年の高潮災害

大正6年の高潮災害（東京湾台風）とは

1917年（大正6年）10月1日に発生した高潮災害は、台風が東京湾沿岸を襲い、甚大な被害をもたらしました。特に東京府下では、高潮による高波が沿岸部を襲い、明治43年の大水害とは異なる様相を見せました。このため、被災地では「大正六年の大津波」として語り継がれています。また、この災害を引き起こした台風は「東京湾台風」とも呼ばれています。

概要

台風は9月25日にフィリピン東方で発生し、29日に大東島付近を通過後、30日夜半には近畿地方に大きな被害をもたらしました。その後、静岡と浜松の間を通過し、10月1日に関東地方を南西から北東に縦断。首都東京を直撃しました。都心では最大風速43m/s、日最低海面気圧952.7hPaを記録し、特に日最低海面気圧は現在も破られていない記録です。台風はさらに東北地方・北海道を縦断し、各地に集中豪雨をもたらした後、10月2日にオホーツク海へ抜けました。

全国的な被害は甚大で、近畿地方以東を中心に3府1道25県に及びました。死者・行方不明者数は1,324人、負傷者は約2,000人、全壊家屋は43,083戸、流出家屋は2,399戸、床上浸水は194,698戸に達し、明治24年の濃尾地震、明治29年の三陸大津波に次ぐ大災害となりました。

東京湾接近時には満潮と重なり、京橋区、深川区、本所区などの東京湾沿岸部や隅田川沿いの地域は特に大きな被害を受けました。高潮は前後2回にわたって押し寄せ、佃島、月島、築地、品川、深川地区などが浸水。特に月島、築地、洲崎方面では増水が激しく、多くの犠牲者が出ました。東京府の死者・行方不明者数は563人に上り、全国の半数近くを占めました。

千葉県の東京湾岸も大きな被害を受け、浦安町は全町が水没しました。江戸時代から続く行徳塩田は堤防が完全に破壊され、東京湾の塩田による製塩業は事実上、終わりを告げました。

神奈川県では橘樹郡が最も被害が大きく、県内の死者・行方不明者60人のうち、半数以上の32人が橘樹郡で犠牲となりました。横浜港では3,100隻以上の船舶が転覆し、多くの沖仲仕や水上生活者が犠牲となりました。当時の横浜港は日本の経済活動の要であり、この災害は日本経済全体に大きな打撃を与えました。

被害が集中した京橋区では、第1師団が出動し7,600人分の炊き出しを実施。深川区でも軍隊の支援を得て5,000人分の炊き出しが行われました。本所区では隅田川の氾濫により自炊が困難になった被災者が多く、区内の小学校に6,917人が避難しました。

小説家・随筆家の内田百閒は、随筆『大風一過』でこの日の災害を「颶風（ぐふう）であった」と表現しています。

関連する災害

この台風と集中豪雨は、近畿地方では9月30日に淀川水系の堤防決壊による大洪水を引き起こし、「大正大洪水」「大正大水害」「淀川大塚切れ」などと呼ばれています。

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