橘樹郡

橘樹郡（たちばなぐん）とは

橘樹郡は、かつて神奈川県に存在した郡で、武蔵国に属していました。1878年（明治11年）に行政区画として発足し、現在の横浜市鶴見区、神奈川区の全域、西区、保土ヶ谷区、港北区の一部と、川崎市全域、麻生区の一部を範囲としていました。郡役所は神奈川町に置かれ、その後川崎町に移転しました。

郡域の変遷

橘樹郡の領域は、時代とともに変化しました。古代には、律令制の下で武蔵国橘樹郡として整備され、郡衙が置かれました。中世には、稲毛氏や秩父党などによる支配が行われ、江戸時代には、東海道や中原街道が整備され、宿場町が発達しました。明治時代に入ると、郡制が施行され、町村合併が進められましたが、1938年（昭和13年）に川崎市に編入される形で消滅しました。

隣接していた郡

橘樹郡は、行政区画として発足した当時、以下の郡と隣接していました。

東京府：荏原[[郡]]
神奈川県：南多摩[[郡]]、北[[多摩[[郡]]]]、荏原[[郡]]、都筑郡、久良岐郡、鎌倉郡

原始・古代の橘樹郡

縄文時代には、子母口貝塚や神庭遺跡が形成され、弥生時代には、梶ヶ谷神明社上遺跡や井田伊勢台遺跡が形成されました。古墳時代には、多摩川周辺に多くの古墳が築造され、特に蟹ヶ谷古墳群では前方後円墳が発見されています。また、534年には、橘花屯倉が置かれたと推測されています。

飛鳥・奈良時代には、律令制の下で国・郡・郷の行政区画が整備され、橘樹郡となりました。橘樹官衙遺跡群の発掘により、郡衙は影向寺付近から千年へと移され、橘樹郡の政治中心地であったことが推定されています。

中世の橘樹郡

鎌倉時代には、稲毛氏が桝形城を拠点として北部を治め、南部は河崎領などと呼ばれました。鶴見区周辺は鶴岡八幡宮の社領であり、「鶴見郷」と呼ばれていました。室町時代には、後北条氏の家臣によって分割統治されていたと推定されています。

江戸時代の橘樹郡

江戸時代には、東海道が整備され、川崎宿、神奈川宿、保土ヶ谷宿が置かれました。中原街道や大山街道も整備され、交通の要衝として栄えました。また、二ヶ領用水が建設され、新田開発が進められました。

明治以降の橘樹郡

明治時代に入ると、行政区画としての橘樹郡が発足し、郡役所が設置されました。しかし、町村合併や横浜市、川崎市の発展により、郡域は大きく変化しました。1938年に橘樹郡は消滅し、その領域は横浜市と川崎市の一部となりました。

橘樹郡の主な出来事

縄文時代：子母口貝塚、神庭遺跡が形成。
弥生時代：梶ヶ谷神明社上遺跡、井田伊勢台遺跡が形成。
古墳時代：多摩川周辺に古墳が築造。
飛鳥・奈良時代：橘樹郡が成立、郡衙が置かれる。影向寺が創建。
鎌倉時代：稲毛氏が北部を支配。
江戸時代：東海道が整備、川崎宿、神奈川宿、保土ヶ谷宿が置かれる。二ヶ領用水が建設。
明治時代：行政区画としての橘樹郡が発足。町村合併が進む。
1938年：橘樹郡が消滅。

橘樹郡の構成町村（1889年）

町村制施行時、橘樹郡には以下の3町20村がありました。

神奈川町
子安村
小机村
大綱村
旭村
生見尾村
川崎町
大師河原村
田島村
町田村
御幸村
住吉村
日吉村
高津村
中原村
橘村
向丘村
宮前村
生田村
稲田村
保土ケ谷町
宮川村
矢崎村

産業と文化

橘樹郡では、農業が盛んで、特に米の生産が有名でした。江戸時代には、「稲毛米」と呼ばれる上質な米が産出されました。また、二ヶ領用水や大丸用水などの灌漑施設が整備され、新田開発が進められました。工業では、明治時代以降、京浜工業地帯の一部として発展し、臨海部の埋め立てや鉄道の建設が進められました。文化面では、影向寺などの古刹や、古墳などの史跡が残されています。

まとめ

橘樹郡は、古代から近代にかけて、その姿を変えながら歴史を刻んできました。その領域は、現在の横浜市と川崎市にまたがり、多様な文化と歴史を育んできました。この地域を訪れる際は、ぜひ橘樹郡の歴史に触れてみてください。

参考資料
「角川日本地名大辞典」編纂委員会 編『角川日本地名大辞典』 14 神奈川県、角川書店、1984年6月1日。ISBN 4040011406。
旧高旧領取調帳データベース
川崎市編『川崎市史』川崎市
林述斎ほか『新編武蔵風土記稿』
川崎市文化財団『川崎歴史ガイド 橘樹郡家と影向寺』2004年
川崎市市民ミュージアム『弥生・古墳・飛鳥を考える—古墳の出現とその展開—』2006年
佐保田五郎『菅散歩（一）菅の地名・自然』菅散歩出版事務局、1997年
横浜市市民局『横浜の町名』1996年
高橋嘉彦『ふるさと川崎の自然と歴史(上)』多摩川新聞社、2000年。ISBN 4-924882-36-4。
小川一朗『川崎の地誌 新しい郷土研究』有隣堂、2003年。ISBN 4-89660-180-7。
川崎地域史研究会『かわさき民衆の歩み 明治・大正・昭和』小林孝雄・編、多摩川新聞社、1995年。ISBN 4-924882-12-7。
* 神奈川県県民部県史編集室 編『神奈川県史 別編1 人物』神奈川県、1983年。

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