大清宝鈔

大清宝鈔（だいしんほうしょう）とは

大清宝鈔は、19世紀中頃の清王朝が発行した紙幣を指します。具体的には、1853年（咸豊3年）から1859年（咸豊8年）にかけて流通しました。これは、清朝が財政難に苦しむ中で、それまでの貨幣制度を大きく変える試みでした。

大清宝鈔発行前の状況

清朝は、明朝の制度を踏襲し、銀貨（銀両）を主要な高額貨幣とし、銅貨（制銭）を小額貨幣としていました。しかし、初期の清朝は、過去の王朝における紙幣の失敗例から、紙幣発行には非常に慎重でした。順治帝の時代に一時的に紙幣を発行したものの、すぐに停止しました。

民間紙幣と国外紙幣の流通

銀貨と銅貨の兌換需要が高まるにつれて、金属貨幣の不便さが顕著になりました。そこで、民間では信用制度が発達し、独自の紙幣が発行されるようになります。質屋（典当業）は、現金との兌換が可能な預かり証を発行し、これが一種の紙幣として流通しました。また、両替商（銭荘）も現金の預かり証を発行し、これも市場で広く使われるようになりました。さらに、開港後には外国銀行が進出し、彼らの発行する兌換券も清国内で流通するようになり、貨幣制度は複雑化しました。

清朝の財政悪化

清朝は、康熙帝、雍正帝、乾隆帝の時代には安定した財政を誇っていましたが、その後の反乱鎮圧費用などで財政状況が悪化しました。特に、白蓮教徒の乱の鎮圧には巨額の費用がかかり、国庫の余剰金が底を尽きました。これにより、清朝は従来の税収に基づいた歳出決定から、歳出に基づいた課税へと方針を転換せざるを得なくなりました。

大清宝鈔の発行

アヘン戦争や太平天国の乱によって、清朝の財政はさらに悪化しました。この財政難を打開するため、清朝は紙幣の発行に踏み切ります。戸部は、銀貨と兌換可能な高額紙幣（官票）と、銅銭と兌換可能な小額紙幣（大清宝鈔）を発行することを決定し、官銭局を設立しました。大清宝鈔には、百五十文から一万文までの7種類の額面がありました。

大清宝鈔は法貨として強制通用力を持っていたものの、その乱発によって信用を失いました。人々は紙幣の信用を保証するために、裏面や表面に墨書きのサインや印章を押し、汚れているほど信用が高いという奇妙な現象も起きました。これは、偽造対策が不十分だったことも一因と考えられます。

大清宝鈔の形状と図柄

大清宝鈔は、伝統的な中国の紙幣と同様に縦型で、サイズは縦約200ミリ×横約120ミリでした。紙幣の縁には皇帝を象徴する龍や吉祥文様の青海波が描かれ、中央には額面、左右には発行年月日と発行番号が記載されました。下部には兌換に関する文言と偽造者への処罰文言が記されています。青色一色の銅板印刷で、表裏には官印が押されました。

大清宝鈔の終焉と影響

大清宝鈔と官票は、1859年（咸豊8年）に兌換が停止され、不換紙幣となりました。一方で、民間で発行された銭票は20世紀まで流通を続けました。

清朝内では、近代的な銀行を設立し、兌換券を発行することで貨幣制度を安定させようとする動きも起こりました。1897年（光緒23年）には、初の近代的銀行である中国通商銀行が設立され、兌換券を発行しました。その後、中央銀行に近い機能を持つ戸部銀行が設立され、紙幣発行権などを独占するようになりました。さらに、純粋な民間銀行である信成銀行も設立され、紙幣発行権を持つようになりました。

1908年には、戸部銀行は大清銀行に改組され、中央銀行としての機能を強化しました。大清銀行は、初の西洋式横型紙幣である大清銀行兌換券を発行し、1910年には兌換紙幣則例が公布され、紙幣発行権を大清銀行に一元化しました。

大清宝鈔の発行は、清朝末期の貨幣制度の混乱を示す象徴的な出来事であり、近代的な貨幣制度への移行を促す要因の一つとなりました。

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