雍正帝

雍正帝：清朝中興の祖、その生涯と業績

雍正帝（ようせいてい）は、清朝の第五代皇帝であり、廟号は世宗、諱は胤禛（いんしん）です。康熙帝の第四子として生まれ、その治世はわずか13年と短いながらも、清朝の歴史において重要な転換期を担いました。父帝の時代から引き継いだ財政難を克服し、専制政治を確立、次代の乾隆帝による全盛期の礎を築きました。

生涯

即位まで

雍正帝は、康熙帝の第四子として生まれました。母は徳妃ウヤ氏で、後の孝恭仁皇后です。康熙37年（1698年）にドロイ・ベイレ（貝勒）の爵位を与えられ、鑲白旗（しょうはくき）に所属することになります。その後、康熙48年（1709年）には和碩雍親王（ほしょようしんおう）に進み、旗王として一定の勢力を持ちました。

康熙帝は、次男の胤礽（いんじょう）を皇太子に立てていましたが、皇太子は素行が悪く、二度にわたって廃太子されます。康熙帝は後継者を明確に指名しないまま亡くなったため、皇位をめぐり、兄弟間で激しい争い（九子奪嫡）が起こります。その結果、胤禛が皇帝に選ばれ、雍正帝として即位しました。当時45歳でした。

勢力確立

雍正帝の即位は、彼の母の身分が低かったこと、皇位継承の過程から、必ずしも盤石なものではありませんでした。そのため、側近を重用し、政治基盤の強化に努めます。即位後五年目には、有力な重臣であった隆科多（ロンコド）を誅殺、皇位継承を争った兄弟たちも厳しく処罰しました。

康熙帝の八男である廉親王胤禩（いんし）を「アキナ（犬）」、九男の胤禟（いんとう）を「セスヘ（豚）」と改名させ監禁、朋党の領袖であった上三旗大臣たちも処刑しました。さらに、密偵を各地に潜ませて情報を収集し、1732年には内閣を飛び越えて決裁を行う軍機処を創設、皇帝独裁体制を確立します。また、兄弟たちの名前を、雍正帝への忠誠を示す意味で、胤から允へと改称させました（十三男の胤祥（いんしょう）を除く）。

立太子

皇位継承の混乱を経験した雍正帝は、皇太子を立てることをせず、後継者指名法として「密勅立太子法」を採用しました。これは、皇帝が後継者の名前を書いた勅書を「正大光明」と書かれた扁額の裏に隠し、崩御後に開封するという方法です。この制度によって、後継者争いを未然に防ぎ、皇帝の権威を確立することができました。

崩御

雍正帝は、1735年に崩御しました。過労死説が有力ですが、不老長寿の薬を服用したことによる中毒死説もあります。また、暗殺説も根強く残っており、特に、かつて処罰した呂留良の娘である呂四娘に殺害されたという伝説が有名です。しかし、いずれにせよ、その死は突然であり、多くの謎を残しています。

内政

文字の獄

雍正帝の時代には、多くの「文字の獄」と呼ばれる言論弾圧事件が起こりました。これは、清朝を批判する言動を取り締まるもので、特に官僚や知識人を対象としたものでした。

汪景祺（おうけいき）の獄： 年羹堯（ねんこうぎょう）の秘書であった汪景祺が著した『西征隨筆』が清朝を侮辱しているとされ、連座して処刑されました。
査嗣庭（さしてい）の獄： 郷試の試験問題として出された詩経の一節が、雍正帝の首を刎ねることを暗喩するとされ、投獄され獄死、遺体は晒し首となりました。
呂留良（りょりゅうりょう）の獄： 反清思想を持っていた呂留良の著作が、曾静（そうせい）による反乱計画に関わっていたとされ、死後、棺桶を暴かれ晒し首となり、子孫は処刑、流刑に処されました。しかし、雍正帝の勅命によって、呂留良の著作は発禁処分にはなりませんでした。

奴隷解放

雍正帝は、身分制度の改革にも取り組みました。山西省の楽戸、浙江省の惰民、安徽省の世僕など、賎民階級を解放し、良民と同等の地位を与えました。これは、官僚や特権階級を認めないという雍正帝の思想に基づいています。しかし、奴隷に対する差別や生活環境の悪さは、この後も残りました。

言語政策

雍正帝は、北京[[官話]]の普及にも力を入れました。中央集権体制を強化するため、北京[[官話]]を標準語とし、福建省に「正音書院」を設置、広東省の粤秀書院を支援するなどして、官話教育を推進しました。これにより、清朝の統治は円滑になり、中国国内の言語統一が進みました。

外交

雍正帝は、チベット情勢にも積極的に関わりました。康熙帝の時代に混乱していたチベットに対し、グシ・ハン一族を制圧し、チベットを分割統治することにしました。また、ロシアとの間ではキャフタ条約を締結し、国境を画定、交易に関する協定を結びました。オイラトとの間では、国境交渉を行い、アルタイ山脈を境界とする取り決めが成立しました。

後妃子女

雍正帝には、多くの后妃と子がいました。正室には孝敬憲皇后ウラナラ氏がおり、継室には後の乾隆帝の母となる孝聖憲皇后鈕祜禄（ニョフル）氏がいます。その他、年氏、耿氏、李氏、劉氏などの側室がいました。

逸話

雍正帝は、国境問題に対して、近隣国と睦み合うことを重視しました。越南との国境紛争について、利を求めて争うべきではないという考えを示しました。
質素倹約を自ら実践し、使用済みの紙を裏返して使うなど、無駄を嫌いました。
日本に対しては好意的な感情を持っていたとされています。
勤勉な皇帝であり、毎日遅くまで政務を行い、多くの上奏文に自ら目を通し、朱批（しゅひ）を書き込みました。

登場作品

雍正帝の生涯は、数多くの小説、ドラマ、映画の題材となっています。特に有名な作品としては、以下のものがあります。

テレビドラマ『雍正王朝』
テレビドラマ『李衛当官』
映画『空とぶギロチン』
* 演劇『君子無朋～中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝～』

まとめ

雍正帝は、その強烈な個性と卓越した政治手腕により、清朝の歴史に大きな足跡を残しました。厳しい統治者としての側面を持ちながらも、財政再建、専制政治の確立、文化政策の推進など、様々な分野で功績を挙げました。彼の遺した業績は、後世に大きな影響を与え、特に乾隆帝の時代における全盛期の基礎を築いたと言えるでしょう。

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