大渓文化

大渓文化（だいけいぶんか）

大渓文化は、中国の長江中流域に位置する重慶市、湖北省、湖南省の三峡周辺から両湖平原にかけての広い範囲で、およそ紀元前5000年から紀元前3000年頃にかけて栄えた新石器時代の文化です。

この文化は、重慶市巫山県瞿塘峡にある大渓遺跡が標式となり、その名が付けられました。長江中流域における新石器文化の発展段階の一つと考えられており、先行する城背渓文化から発展し、後続の屈家嶺文化へとその要素が引き継がれたとされています。この他の代表的な遺跡としては、湖南省常徳市澧県にある城頭山遺跡などが知られています。

発見と研究史

大渓遺跡は、1920年代にアメリカの考古学者ネルス・C・ネルソンによって初めてその存在が確認され、土器片などが発見されました。その後、1959年以降、複数回にわたる大規模な発掘調査が実施され、多数の遺物や構造物が検出されました。こうした調査の結果、1970年代以降、この遺跡群が示す独自の文化が認識され、「大渓文化」という名称で呼ばれるようになりました。

しかし、大渓文化の主要な遺跡の多くは、残念ながら現代の三峡ダム建設に伴う水没などにより、失われてしまいました。そのため、限られた情報からの研究が進められています。

文化の特徴

大渓文化の遺跡からは、その生活や技術に関する様々な痕跡が見つかっています。

特に特徴的なのは、陶器です。比較的低温で焼かれた紅陶が大量に出土しており、これらは日常的に使用されたと考えられます。器形としては、食べ物を盛るための皿や、穀物などを保存するための円筒形の壷などが見られます。また、白い胎土に赤い顔料で模様を描いた彩陶も一部に見られ、後の文化にも影響を与えたと考えられています。

また、集落の跡からは、この時代の人々の暮らしぶりがうかがえます。稲作が広く営まれていた痕跡が見つかっており、これはこの地域が早期から農耕社会を形成していたことを示唆しています。住居は、竹や木を骨組みにし、その上に泥を塗って壁とする、この時代の長江流域で広く見られた建築様式であったと考えられます。集落によっては、外敵からの防御や集落内の秩序維持を目的とした環濠（堀）を持つものもあり、城頭山遺跡などに見られます。

他地域との交流

大渓文化は、長江中流域という地理的な位置から、他の地域の文化との交流も盛んに行われていたことが分かっています。特に、長江下流域のデルタ地帯、太湖周辺で栄えた馬家浜文化との間には、活発な交流があったことが出土品から読み取れます。

例えば、大渓文化の特徴である白い皿のような陶器が、馬家浜文化の遺跡からも発見されています。これは、技術や物品が地域を越えて伝わっていたことを示しています。逆に、馬家浜文化圏で発展したヒスイ加工の技術や製品が、大渓文化の地にも持ち込まれ、影響を与えた可能性が指摘されています。大渓文化の遺跡から出土するヒスイ製品は、こうした広範な交流の一端を示すものです。

担い手集団

遺跡から見つかった人骨のDNA解析は、大渓文化の担い手集団についても興味深い知見をもたらしています。検出されたY染色体ハプログループは、現在の中国南部から東南アジア北部の山岳地帯に分布するモン・ミエン語族（ミャオ・ヤオ語族）に多く見られるタイプ（O2a2a1a2 M7などが主体）と高い一致を示しました。

この発見は、大渓文化を担った人々が、現代のモン・ミエン系民族の祖先に連なる集団であった可能性が高いことを示唆しており、長江中流域における古代の民族集団の移動や形成を考える上で重要な手がかりとなっています。

位置づけ

大渓文化は、その直前に同じ地域に存在した城背渓文化の基盤を受け継ぎながら、独自の発展を遂げ、長江中流域における新石器文化の一つの頂点を築きました。そして、紀元前3000年頃に終焉を迎えると共に、次にこの地域で繁栄する屈家嶺文化へと多くの要素を引き継ぎました。これらの文化は、長江中流域における新石器時代の連続的な発展段階を構成しており、長江文明の一部として重要な役割を果たした文化であると考えられています。

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