大給恒

大給恒：幕末から明治を駆け抜けた大名とその功績

大給恒（おぎゅう ゆずる、旧名：松平乗謨（まつだいら のりかた））は、江戸時代後期の重要な人物であり、明治維新後も活躍を続けた大名です。三河国奥殿藩から信濃国田野口藩（後の竜岡藩）を治め、幕府要職を歴任したのち、日本赤十字社の設立にも深く関わったことで知られています。本記事では、波乱に満ちた彼の生涯と、多岐に渡る功績について詳細に解説します。

華麗なる出自と幕府での活躍

1839年（天保10年）、奥殿藩7代藩主・松平乗利の長男として生まれた大給恒は、幼少期から優れた知性と、西洋事情への深い理解で知られていました。1852年（嘉永5年）、家督を継承すると、翌年には竹橋御門番に任じられます。

1853年（嘉永6年）のペリー来航は、彼に強い衝撃を与えました。日本の軍備強化の必要性を痛感した彼は、農民兵による歩人隊を編成するなど、積極的な軍事改革に着手します。その後、従五位下・兵部少輔に叙任され、幕府要職への道を歩み始めます。日光祭礼奉行を務めた後、1863年（文久3年）には大番頭、若年寄へと昇進。

1863年（文久3年）9月、恒は藩庁を奥殿から信濃国佐久郡田野口に移転、星形要塞である龍岡城を築城しました。これは、飛び地であったものの領地の多くが信濃にあったためであり、藩政改革の一環として戦略的な判断に基づいたものでした。

幕政への関与を深めた彼は、1864年（元治元年）には横浜鎖港問題で政事総裁職の松平直克と対立し、若年寄を罷免されますが、その後、陸軍奉行、若年寄、そして老中へと再起を遂げます。朝廷との交渉役も担い、幕末期の政局の中枢に深く関わっていきました。1867年（慶応3年）には陸軍総裁に任じられます。

彼は藩政においても手腕を発揮しました。フランス式の軍制を導入した農民兵を基礎とする非常先手組を編成しただけでなく、殖産興業や生糸生産の増強など、藩の経済力強化にも尽力しました。

戊辰戦争が始まると、陸軍総裁と老中の職を辞し、大給と改姓して信濃に帰国。新政府への帰順を表明しますが、一旦謹慎を命じられます。その後、北越戦争に出兵し、謹慎を解かれると、藩名を竜岡藩と改めました。維新後は賞典金2000両を下賜されています。

明治時代での活躍と晩年

明治維新後、竜岡藩知事に任じられた恒は、藩の財政難から廃藩を願い出て、1871年（明治4年）廃藩置県を迎えました。同年、名を松平乗謨から大給恒と改めます。

その後も、政府要職を歴任し、世界の勲章制度調査や賞勲事務局副長官、議官兼賞勲局副総裁などを務め、日本の賞勲制度の確立に大きく貢献しました。1884年（明治17年）には子爵に叙せられ、1890年（明治23年）からは貴族院議員を務めました。1907年（明治40年）には伯爵に昇爵。1909年（明治42年）には枢密顧問官に就任しています。

日本赤十字社への貢献

大給恒は、佐野常民と共に、日本赤十字社の母体となる博愛社の設立と発展に尽力しました。佐野常民が「日赤の父」と呼ばれる一方、恒は「日赤の母」と呼ばれ、その功績は高く評価されています。

人物像

厳格で清廉潔白な人となりで知られた大給恒は、詩にも巧みであり、「亀崖」という号で知られています。また、賞勲の職務に専念するため、私的な交際を極力避けていたという逸話も残されています。

結論

大給恒は、幕末から明治にかけて、政治、軍事、そして社会貢献と、多様な分野で活躍した稀代のリーダーでした。その功績は、現代においても高く評価されており、日本近代史において重要な足跡を残した人物と言えるでしょう。彼の生涯は、激動の時代を生き抜いた一人の武士の生き様として、後世に語り継がれるべきものです。

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