大舘常興日記

『大舘常興日記』は、室町時代後期から戦国時代にかけての激動の時代を生きた、室町幕府幕臣・大舘尚氏（法号は常興）の日記です。別名『大舘記』とも呼ばれ、当時の社会情勢や幕府内部の様子を知る上で非常に重要な史料とされています。

大舘氏は、室町幕府において奉公衆という役職を務めていました。特に尚氏は、当時としては珍しいほどの長寿を誇り、足利義政から義晴に至るまで、歴代の将軍に仕えた老臣でした。彼は武家故実、つまり武家の礼儀作法や伝統に深く通じており、その知識と経験は日記にも色濃く反映されています。

『大舘常興日記』が貴重な史料とされる理由の一つは、戦国時代の室町幕府の状況や、幕府の財源であった料所や荘園の状況が詳細に記録されている点です。日記からは、幕府の財政状況や、各地の荘園における紛争、幕府の権威の衰退など、当時の社会問題が垣間見えます。

また、尚氏は書札礼、つまり手紙の書き方や作法にも深い関心を持っていました。日記には、彼が著した『大舘常興書札抄』に関する記述や、実際にやり取りされた書信の写しなども含まれています。これらの記述は、当時の武士階級におけるコミュニケーションや礼儀作法を知る上で貴重な情報源となります。

現在確認されている自筆本は、天文9年（1540年）4月、同10年10月から12月、同11年2月から5月、そして8月から9月までの9ヶ月分です。これらの自筆本は、天理図書館に所蔵されています。また、内閣文庫には、天文7年9月から天文11年9月までの期間を網羅する24冊分の写本が所蔵されています。これらの写本も、日記の内容を研究する上で重要な役割を果たしています。

参考文献：
桑山浩然「大館常興日記」（『国史大辞典 2』吉川弘文館、1980年）
鳥居和之「大館常興日記」（『日本史大事典 1』平凡社、1992年）

『大舘常興日記』は、室町時代後期から戦国時代への移行期における社会情勢、幕府の内部事情、武士の生活や文化を多角的に知ることができる貴重な史料であり、歴史研究者にとって欠かせない存在と言えるでしょう。

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