大舘尚氏

大舘尚氏（おおだちひさうじ）：室町幕府を支えた教養豊かな武将

大舘尚氏（おおだち ひさうじ）は、室町時代後期から戦国時代にかけて活躍した武将です。初めは重信（しげのぶ）と名乗り、後に尚氏と改名。常興（じょうこう）という法名でも知られています。彼は、室町幕府において重要な役割を果たし、文化人としても優れた才能を発揮しました。

生涯

享徳3年（1454年）に、大舘教氏の子として誕生しました。寛正4年（1463年）に父が急死すると、祖父である持房の後見を受け、8代将軍足利義政に出仕します。文明元年（1469年）には、将軍世子・足利義尚に付けられて申次となり、義尚が将軍に就任した後は、御供衆・申次衆を務め、奉公衆第五番番頭を兼務するなど、将軍の側近として活躍しました。この頃、義尚から偏諱を受け、尚氏と改名しています。

長享元年（1487年）の六角高頼征伐（長享・延徳の乱）では、奉公衆第五番を率いて参戦。評定衆にも任じられ、義尚の政務決裁に深く関与しました。義尚の急逝後、即時撤退を主張し、六角氏の反撃を食い止める手腕を見せました。しかし、足利義稙が将軍に就任すると、尚氏は義尚の側近であった二階堂政行や結城政胤らと共に失脚し、番頭も解任されてしまいます。

足利義澄が将軍となると、尚氏は再び幕府に用いられ、永正2年（1505年）には従四位下に叙せられます。また、若狭の青保・松永・安賀・鳥羽・宮川各荘など、北陸地方における幕府御料所の代官を務めました。

12代将軍・足利義晴の時代には、尚氏は幕臣の長老として重んじられ、申次・内談衆に任じられました。娘を義晴の側室とするなど、破格の待遇を受けます。義晴の養育係であった佐子局（清光院）は、三淵晴員の姉が尚氏（あるいは大舘氏一族）の養女となって義晴に仕えたとする説があり、尚氏の実娘も彼女の跡を継いで佐子局と名乗ったとされています。また、娘の一人が本願寺一族の玄秀に嫁いでおり、玄秀は大館氏の所領である加賀国若松荘に拠点を置く若松本泉寺の親族でした。

晩年は出家して常興と名乗り、伊予入道とも称しましたが、天文15年（1546年）の舎利寺の戦い後に近江国に逃れた義晴に同行したとされています。具体的な没年は不明ですが、この時点では存命であったと考えられています。

人物

尚氏は、有職故実に詳しく、能筆家としても知られていました。和歌、連歌、蹴鞠にも通じており、文化人としての才能も発揮しました。有職故実に関する著書として、『大舘常興書札抄』や『大舘年中行事』などがあります。晩年に執筆された日記『大舘常興日記』は、戦国期の室町幕府の動向を知る上で非常に貴重な史料となっています。この日記を通じて、三条西実隆ら公家や僧侶との親交が厚かったことがわかります。また、役職柄、各地の戦国大名との連絡役を務めることが多く、特に越後の長尾氏との取次に関する史料が残されています。足利義晴－尚氏－長尾為景・晴景の交渉は、次代の足利義輝－大舘晴光－長尾景虎（上杉謙信）へと引き継がれていきました。

尚氏は、室町幕府の政治と文化に深く関わり、激動の時代を生き抜いた人物として、その名は歴史に刻まれています。

参考文献

桑山浩然「大館尚氏」『国史大辞典』 2巻、吉川弘文館、1980年。ISBN 978-4-642-00502-9。
福田豊彦「大館尚氏」『鎌倉・室町人名事典』新人物往来社、1990年。ISBN 978-4-404-01757-4。
設楽薫「大館尚氏」『日本史大事典』 1巻、平凡社、1992年。ISBN 978-4-582-13101-7。
小林健彦「大館尚氏」『戦国人名辞典』吉川弘文館、2006年。ISBN 978-4-642-01348-2。

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