大舘常興書札抄

『大舘常興書札抄』（おおだちじょうこうしょさつしょう）は、室町時代後期から戦国時代にかけて成立した書札礼書です。著者は室町幕府の幕臣であった大舘尚氏（おおだちひさうじ、法号は常興）。原題は現存する写本の内題から「書札之事」であったと考えられています。現在用いられている書名は『群書類従』に拠るもので、写本によって題名が異なる場合があります。

成立時期は戦国時代初期の永正・大永年間と推定されています。残念ながら原本は現存せず、複数の写本が残るのみですが、写本ごとに題名や内容に差異が見られます。

本書は大舘尚氏が「九郎」と呼ばれる人物のために書き与えたとされています。「九郎」が誰であるかについては、尚氏の子弟か近親者であると推測されています。ただし、宮内庁書陵部所蔵の松岡本では宛先を尚氏の息子である大舘晴光としていますが、晴光が九郎の名乗りを用いた記録がないため、別人である可能性も指摘されています。

室町幕府において申次衆（もうしつぎしゅう）などを務め、将軍と諸権門との連絡役を担うことが多かった大舘氏。その当主が、将軍・公卿以下の公家、門跡以下の僧侶、管領以下の守護大名、室町幕府の諸役人や諸大名の家臣など、様々な身分の相手に対して書状を出す際の書札礼を、対象者別に分けて解説しています。実際の書札を例に挙げながら注記を加える形式で、具体的な事例を通して理解を深めることができます。

また、本書では、書状に添える脇付（わきづけ）の種類や、上所（うわしょ）の高低（相手に対する敬意の度合いを示す）についても触れられています。大舘氏という幕臣の立場から書かれた書札礼であり、一般的な書札礼を論じたものではありませんが、武家故実（ぶけこじつ）に優れた大舘尚氏による書札礼として、後世に重んじられました。

本書は、当時の武家社会における書札礼の作法や慣習を知る上で貴重な資料であり、室町・戦国時代の社会や文化を研究する上で重要な情報源となっています。

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