大韓民国国軍のベトナム参戦

大韓民国国軍のベトナム参戦は、1964年から1973年にかけて、朴正煕軍事政権下で行われたベトナムへの派兵を指します。これは、南ベトナム政府の参戦要請とアメリカ合衆国の支援要請に応じたもので、大韓民国にとって初の国外軍事派兵となりました。この参戦は、ベトナム戦争における韓国の活動全体を包括的に記述するものです。

概要

1964年、南ベトナム政府からの参戦要請と韓国側の軍事支援提案により、韓国軍の派兵が開始されました。派兵は軍事支援だけでなく、インフラ支援といった非戦闘員の支援も含まれていました。しかし、戦闘地域では大規模な戦争犯罪も発生し、多くの犠牲者を出しました。韓国軍は、4968人の戦死者と8004人の負傷者を記録しています。

参戦の時系列

以下は、2005年に公開された外交文書に基づく、参戦の時系列です。

1964年
5月9日：ジョンソン米大統領が友好国25カ国に南ベトナム支援を要請。
7月15日：南ベトナム首相が韓国軍の派兵を要請。
7月31日：韓国国会が第一次派遣同意案を可決。
9月12日：第一次派遣団がサイゴンに到着。
1965年
1月26日：韓国国会が第二次派遣同意案を可決。
3月16日：建設支援団（鳩部隊）がサイゴンに到着。
8月13日：国会が第三次派遣（戦闘部隊）を可決。
10月14日：第二海兵旅団（青龍部隊）がリインに上陸。
10月20日：駐越韓国軍司令部がサイゴンに設置。
11月2日：首都師団（猛虎部隊）本隊がクイニョンに上陸。
1966年
3月20日：国会が第四次派遣同意案を可決（戦闘部隊増派）。
4月19日：首都師団（猛虎部隊）第26連隊本隊がクイニョンに上陸。
10月3日：第9師団（白馬部隊）がニンホアと点滅ラインに上陸。
10月21日：朴正煕大統領が南ベトナムを訪問。
1970年代
1971年12月4日：駐越韓国軍が第一段階の撤退を開始（第二海兵旅団）。
1972年4月13日：駐越韓国軍の第一次撤退が完了。
1973年1月28日：ベトナム戦争、平和協定が発効。
1973年3月13日：駐越韓国軍の第二次撤退が完了（本隊）。
1973年3月23日：駐越韓国軍の後発隊撤収が完了。

韓国国軍による戦争犯罪

ベトナムメディアによると、30万人以上の韓国軍兵士がベトナム戦争に派遣され、約9000人のベトナム民間人が殺害されました。生存者の証言からは、無差別機銃掃射、大量虐殺、ベトナム人女性に対する強姦や殺害、家屋への放火など、残虐な行為が報告されています。

1966年2月、ビンディン省タイヴィン村では、韓国軍猛虎部隊が住民68名を集め、そのうち婦女子を含む65名を虐殺しました。この事件は「ビンディン省攻撃と大量虐殺」として知られています。この地では、虐殺事件の犠牲者を追悼する慰霊祭が毎年行われています。しかし、韓国政府からの支援は十分ではなく、被害者や遺族は依然として苦しんでいます。

2001年には、当時の韓国大統領、金大中がベトナム戦争参戦について遺憾の意を表明しましたが、その後の朴槿恵大統領は、参戦勇士の名誉を傷つけるものとしてこの発言を批判しました。朴槿恵は、日本に対して「過去を直視せよ」と迫る一方で、ベトナム戦争における韓国軍の蛮行について謝罪することはなく、この矛盾した姿勢が批判を浴びています。

ベトナムでは、韓国軍兵士によって抹殺された村ごとに碑が建てられ、「『ダイハン』の残虐行為を忘れまい」という誓いが刻まれています。また、ベトナム人女性への性的暴行やライダイハンの問題も、未だに解決されていません。

ベトナム戦争の特需と経済成長

朴正熙政権は、アメリカの歓心を得て政権の正当性を確保するため、韓国軍の派兵を申し出ました。派遣された韓国軍は、2個師団と1個旅団で延べ3.1万人に達し、最盛期には5万人に達しました。また、多くの民間人も「ベトナム特需」を当て込んでベトナムに進出し、彼らの送金は韓国の外貨収入の大きな割合を占めました。この特需は、アメリカの軍事・経済援助、日韓基本条約による援助と並び、「漢江の奇跡」と呼ばれる韓国の経済成長の基礎となりました。

戦争犯罪と遺族の訴え

2020年、フォンニィ・フォンニャットの虐殺の生存者であるグエン・ティ・タンが、韓国政府に対して損害賠償請求訴訟を起こしました。裁判所は、原告の証言を事実と認め、韓国政府に賠償を命じました。しかし、韓国政府は、過去の戦争犯罪を全面的には認めていません。ベトナム側は、政府間での問題ではなく、市民間の問題として捉えているため、政府レベルでの補償要求はされていません。

虐殺事件

ハミの虐殺: クアンナム省ハミ村で135人の村民が虐殺された事件。戦後、元軍人が慰霊碑建設を支援するものの、碑文の内容が問題となり、韓国政府からの圧力で碑文が修正された。
* ビンアンの虐殺、ゴダイの虐殺、タイヴィン虐殺: ビンディン省で行われた虐殺事件。ハミの虐殺とは異なり、大規模な慰霊祭が開催されているが、外交問題にはなっていない。

戦後

1975年、サイゴン陥落により南ベトナム政府が崩壊し、1992年にベトナムと国交正常化されました。ベトナム側は国交回復の際、韓国に補償を求めませんでしたが、市民間の問題として、韓国軍の戦争犯罪に対する認識は残っています。

韓国国内の反応

韓国国内では、民主化後の報道により韓国軍の戦争犯罪が知られ、社会に衝撃を与えました。しかし、政府の対応は必ずしも十分とは言えず、被害者や遺族への支援も十分ではありません。一方、ベトナム戦争参戦を「国家的な功労」として評価する動きもあり、ベトナム政府からの反発を招くなど、歴史認識をめぐる問題は複雑化しています。

評価

肯定的な評価としては、韓国軍による非戦闘員支援が好評であり、経済発展の基盤となった点が挙げられます。一方で、否定的な評価としては、朴正煕政権による戦争を利用した権力維持や、戦争犯罪に対する責任逃れが批判されています。また、ベトナム参戦が全斗煥政権誕生の一因となったとの指摘もあります。

まとめ

大韓民国国軍のベトナム参戦は、韓国の近代史において重要な出来事であり、その影響は政治、経済、社会、そして国際関係にまで及んでいます。この参戦は、韓国の経済成長に貢献した一方で、多くの人々に深い傷跡を残しました。過去の歴史を直視し、真摯に向き合うことが、未来への教訓となるでしょう。

もう一度検索