大音龍太郎

大音龍太郎：幕末維新を駆け抜けた地方官僚

大音龍太郎（おおと りょうたろう）は、1840年3月22日（天保11年2月19日）に近江国伊香郡大音村（現在の滋賀県長浜市木之本町大音）で生まれました。幕末から明治初期にかけて活躍した地方官僚であり、同時に勤王の志士でもありました。

生い立ちと初期の活動

大音は、彦根藩の北国街道柳ヶ瀬の関守の家に生まれ、幼少期から漢学を学びました。父は医者で、母は漢学者の娘という環境で育ち、9歳から母方の叔父である儒学者・大岡松堂に師事。13歳で母を亡くし、14歳からは京都で岩垣月州に儒学を学ぶ傍ら、蘭学にも触れ、西洋の事情にも関心を抱いていました。

17歳で父を亡くした後、江戸の昌平黌に入学。その後、加賀、能登、越中などを遊学し、19歳で信州松代の佐久間象山を訪問、足利学校でも学びました。これらの経験を通じて、大音は幅広い知識と教養を身につけていきました。

勤王の志士として

1859年（安政6年）以降、大音は伊香相救社の小山政徳らと交流を深め、勤王思想に傾倒していきます。1861年（文久元年）には、彦根藩家老の岡本黄石の紹介で、上州の龍門寺で道介和尚と知り合い、勤王運動に身を投じます。この頃、伊藤博文ら長州藩士と接触し、彼らを支援する活動もしていました。

1866年（慶応2年）には、藤田東湖の「正気の歌」にちなんで「養気の歌」を作り、京都で勤王運動に関わります。岩倉具視の屋敷で下働きをしていたこともあります。1867年（慶応3年）には岡山藩校の閑谷黌教頭に就任しますが、すぐに辞任し、東山道総督の招兵に応じて戊辰戦争に参加します。

戊辰戦争での活躍

1868年（慶応4年）3月、東山道鎮撫総督岩倉具視の命で、大音は越後に派遣され、敵情偵察の任務にあたります。この時、彼は志津一郎と変名し、与板藩へ潜入。道中、師と仰ぐ龍門寺の道介和尚と再会し、道介は還俗して牧野再生（再龍）と名乗り、大音の参謀として行動を共にしました。大音は、総督府の一員として上州に入り、農民の蜂起を鎮圧する一方で、小栗上野介忠順の処刑にも関与しています。

大音は上野巡察使に任命され、石山寺を本営として活動しました。小栗の処刑後、権田村に赴き、遺品整理や施しを行い、新政府の仁政を示そうと努めました。また、三国峠の戦いでは勝利に貢献し、その功績により菊の章旗を授与されています。

岩鼻県知事としての統治

1868年（慶応4年）8月、大音は初代岩鼻県知事に任命されます。しかし、彼の統治は非常に厳しく、「首切り龍太郎」と恐れられるほどでした。彼は、盗賊や官軍を偽る者を即座に処刑し、農民の反乱を徹底的に弾圧しました。その一方で、貧しい人々に施しを行い、年貢の免除も実施。民政にも一定の成果を上げています。

大音の苛烈な統治は、政府の知るところとなり、1869年（明治元年）1月、岩鼻県知事を免職。在任期間は半年あまりでした。しかし、その後の地方行政に影響を与えたとも言われています。

その後の人生

岩鼻県知事免職後、大音は彦根藩の少参事、権少参事を務めました。その後、東京に移り、大蔵省に勤務。九等官吏から七等官吏まで進み、蕃地事務局にも出向しました。また、国際法の翻訳にも携わっています。

1870年代には、彦根議社の設立に関わり、彦根製糸所設立に関与しましたが、その経歴から警戒されたというエピソードも残っています。西南戦争の際には西郷隆盛に通じた嫌疑で拘束されましたが、間もなく放免。晩年は、琵琶湖と日本海を結ぶ運河建設を計画したり、故郷の山にトンネルを掘る計画を立てたりしましたが、いずれも実現には至りませんでした。

晩年は鼻の病を患い失明。1912年（大正元年）11月23日に東京で亡くなりました。享年72歳。遺言により、菩提寺の龍潭寺ではなく、東京の寺院に葬られました。

人物像と評価

大音龍太郎は、その生涯を通じて、激動の時代を駆け抜けた人物でした。勤王の志士として、戊辰戦争では軍功を立て、岩鼻県知事としては強権的な統治を行いました。その一方で、民政にも尽力し、地元住民からは「善政」を行ったと評価されています。彼の苛烈な統治は、その後の地方行政に大きな影響を与えたとも言われています。

大音は漢詩にも通じており、雅号を「菱陀」と称しました。彼の書は全国各地に残されています。また、故郷では、その功績を称え、祠が建てられています。大音龍太郎は、毀誉褒貶のある人物ではありましたが、幕末維新史において重要な役割を担った人物として、その名を歴史に刻んでいます。

大音龍太郎の年譜

1840年（天保11年）：近江国伊香郡大音村で生まれる
1859年（安政6年）：伊香相救社の小山政徳らと交流、勤王思想に傾倒
1861年（文久元年）：上州の龍門寺で道介和尚と知り合う
1866年（慶応2年）：京都で勤王運動に関わる
1867年（慶応3年）：岡山藩校閑谷黌教頭に就任
1868年（慶応4年）：戊辰戦争に参加、上野巡察使に任命、岩鼻県知事を兼任
1869年（明治元年）：岩鼻県知事を免職
1870年（明治3年）：彦根藩少参事
1871年 (明治4年): 権少参事
1870年代: 大蔵省に勤務
1877年（明治10年）：西南戦争に関与した疑いで拘束
1912年（大正元年）：東京で死去

大音龍太郎に関する参考文献

『近江人物志 大音龍太郎』滋賀県教育会
『群馬県人名大辞典』上州新聞社
『新修彦根市史　第3巻』彦根市
『高崎市史』高崎市
『倉渕村誌』倉渕村
『渋川市誌』渋川市
『新田町誌』新田町
『原町誌』原町
『相良総三とその同士』長谷川伸
国立公文書館デジタルアーカイブ

もう一度検索