大須賀乙字

大須賀乙字：俳句界に新風を吹き込んだ俳人・俳論家

大須賀乙字（おおすが おつじ）は、1881年（明治14年）に福島県で生まれ、1920年（大正9年）に40歳で亡くなった俳人・俳論家です。本名を績（いさお）といい、俳句の世界で独自の足跡を残しました。

生い立ちと学歴

乙字は、儒学者を祖父に、漢学者を父に持つという学問一家に生まれました。福島尋常中学校、宮城県第一中学校を経て、第二高等学校から東京帝国大学文学部国文科へと進み、その高い学歴が示す通り、幼少の頃から学問に秀でていました。大学卒業後は、中学校や高等女学校で教鞭を執り、その後、東京音楽学校（現在の東京芸術大学）の教授に就任するなど、教育者としても活躍しました。

俳人としての活動

俳人としては、河東碧梧桐に師事し、俳誌『海紅』に参加。新傾向俳句の旗手として注目を集めました。しかし、1915年に起こった海紅堂事件をきっかけに『海紅』を離脱。その後、臼田亞浪とともに俳誌『石楠』を創刊し、俳論家としても活動しましたが、後に亞浪とも決別しています。短い活動期間ながらも、その俳論は、碧梧桐の「無中心論」を始めとする新傾向俳句や、その後の自由律俳句、新興俳句に大きな影響を与えました。

海紅堂事件

1915年5月12日、海紅堂の句会で、乙字と他の同人、特に中塚一碧楼を始めとする若手俳人との間で意見の対立が激化。乙字が句に対し辛辣な批評をしたところ、若手俳人の一人が激昂し、乙字を茶碗で殴打するという傷害事件に発展しました。この事件をきっかけに、乙字は『海紅』を離れることになります。この事件は、当時の俳句界に大きな衝撃を与え、芥川龍之介など多くの作家や俳人がこの事件について記録を残しています。

飯田蛇笏による人物評

俳人の飯田蛇笏は、雑誌『ホトトギス』において、乙字の人物評を掲載しました。蛇笏は、海紅堂事件以降、高浜虚子に接近した乙字の態度を批判。乙字の俳句の稚拙さや、事件をきっかけに碧梧桐の弟子ではないと言い出したこと、傲慢な態度などを指摘しています。また、虚子を「虚子君」と呼んでいたのが、事件後に「虚子先生」と呼ぶようになったことなども批判しています。

著書

乙字は、俳句に関する多くの著書を遺しています。主なものとして、『故人春夏秋冬 冬之部』『乙字俳論集』『乙字書簡集』『自選乙字俳論集』『乙字俳句集』『俳句作法』『大須賀乙字俳論集』などがあります。これらの著書は、彼の俳句観や俳論を理解する上で重要な資料となっています。

死とその後

乙字は、1920年、インフルエンザと肋膜肺炎により40歳の若さでこの世を去りました。戒名は諦観院顕文清績居士。墓所は雑司ヶ谷霊園にあります。門下には、伊東月草や金尾梅の門などがいます。

まとめ

大須賀乙字は、短い生涯の中で、俳人として、また俳論家として、俳句の世界に大きな足跡を残しました。彼の俳句や俳論は、現代の俳句にも大きな影響を与えており、その功績は、今日においても高く評価されています。

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