自由律俳句

自由律俳句とは

自由律俳句は、五七五の十七音という定型にとらわれず、作者の感情や内面のリズムを自由に表現する俳句です。季語や文語、切れ字といった伝統的な要素にも縛られず、口語で表現されることが多いのが特徴です。定型俳句が外部の形式美を重視するのに対し、自由律俳句は作者自身の内なるリズム、すなわち「内在律」や「自然律」を重視します。

定型俳句との違い

定型俳句は、五七五の音数律、季語、切れ字といった制約の中で、言葉を洗練させ、短い詩の中に情景や感情を凝縮させることを目指します。一方、自由律俳句は、これらの制約から解放されることで、より自由で直接的な感情表現を可能にします。ただし、単に字数を変えただけの詩が自由律俳句になるわけではなく、定型を意識した上で、そこから自由になろうとする意志が重要です。字余りや句跨り、破調といった技法は、定型俳句の範囲内で行われるものと区別されます。

自由律俳句の歴史

自由律俳句のルーツは、正岡子規の俳句革新に始まります。子規の没後、河東碧梧桐は自然主義の影響を受け、五七五の定型を破る新傾向俳句を提唱しました。碧梧桐の試みは、大須賀乙字によって理論化されました。しかし、高浜虚子は、定型俳句の伝統を守るため、客観写生や花鳥諷詠を説きました。

荻原井泉水は、碧梧桐の新傾向俳句を批判し、より主観的な印象詩としての俳句を提唱しました。井泉水が主宰する雑誌「層雲」は、種田山頭火、尾崎放哉、青木此君楼といった自由律俳句の先駆者を輩出しました。また、碧梧桐門下の中塚一碧楼も定型打破を掲げ、自由律運動を推進しました。その後、「層雲」と「海紅」が自由律俳句の二大拠点となりました。

昭和初期には、井泉水門下の橋本夢道、栗林一石路、小沢武二らがプロレタリア俳句運動の一環として自由律俳句を追求しましたが、言論弾圧によって活動は終息しました。戦後、内田南草らによって口語俳句研究会が発足し、口語による自由律が広まりました。また、吉岡禅寺洞の「天の川」も自由律俳句の重要な拠点となりました。

近年では、住宅顕信のような夭折の俳人が注目され、お笑い芸人の又吉直樹が自由律俳句の著書を出すなど、自由律俳句は現代においても新たな広がりを見せています。

自由律俳句の主な俳人

河東碧梧桐：新傾向俳句を提唱し、自由律俳句の先駆けとなった。
荻原井泉水：主観的な印象詩としての俳句を提唱し、「層雲」を拠点に自由律俳句運動を推進した。
種田山頭火：放浪の生活の中で、独自の境涯を詠んだ。
尾崎放哉：孤独な境涯を、簡潔な言葉で表現した。
青木此君楼：わずか二音の句など、独自のスタイルを追求した。
中塚一碧楼：碧梧桐とともに自由律運動を推進した。
橋本夢道：プロレタリア俳句運動の中で、社会的なテーマを詠んだ。
栗林一石路：日常的な風景を、独特の視点で切り取った。
住宅顕信：夭折の俳人として、現代の俳人に影響を与えた。
せきしろ：現代における自由律俳句の普及に貢献している。

自由律俳句の作品例

弟を裏切る兄それが私である師走（河東碧梧桐）
曳かれる牛が辻でずつと見廻した秋空だ（河東碧梧桐）
まっすぐな道でさみしい（種田山頭火）
分け入つても分け入つても青い山（種田山頭火）
うしろすがたのしぐれてゆくか（種田山頭火）
どうしようもない私が歩いている（種田山頭火）
たんぽぽたんぽぽ砂浜に春が目を開く（荻原井泉水）
棹さして月のただ中（荻原井泉水）
咳をしても一人（尾崎放哉）
墓のうらに廻る（尾崎放哉）
いれものがない両手でうける（尾崎放哉）
こんなよい月を一人で見て寝る（尾崎放哉）
草も月夜（青木此君楼）
光水の上にある（青木此君楼）
橋をよろこんで渡つてしまふ秋の日（中塚一碧楼）
病めば蒲団のそと冬海の青きを覚え（中塚一碧楼）
シャツ雑草にぶっかけておく（栗林一石路）
こういう思想をもって黄ばんだ街路樹を仰いでいる（栗林一石路）
陽へ病む（大橋裸木）
蛙の声の満月（大橋裸木）
横になって夕立に逃げられちゃった（大橋裸木）
うごけば、寒い（橋本夢道）
無礼なる妻よ毎日馬鹿げたものを食わしむ（橋本夢道）
妻よおまえはなぜこんなにかわいんだろうね（橋本夢道）
ずぶぬれて犬ころ（住宅顕信）
夜が淋しくて誰かが笑いはじめた（住宅顕信）
座った分だけ高くなる空（せきしろ）
1+1=1（堀田季何）

自由律俳句の現在

自由律俳句は、現代においても多くの人々に親しまれています。俳句雑誌や投稿サイトだけでなく、ラジオ番組や書籍など、様々な形で自由律俳句に触れる機会が増えています。また、従来の俳句にとらわれない自由な表現は、若い世代にも受け入れられています。今後も、自由律俳句は俳句の世界を豊かにする存在として、その魅力を発信し続けるでしょう。

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