河東碧梧桐

河東碧梧桐（かわひがし へきごとう）

日本の俳句革新を牽引した俳人・随筆家

河東碧梧桐は、1873年（明治6年）2月26日に生まれ、1937年（昭和12年）2月1日に没した、明治から昭和初期にかけて活躍した俳人、随筆家です。本名は河東秉五郎（へいごろう）。正岡子規の高弟として、高浜虚子と並び称される存在であり、俳句の世界に革新をもたらした人物として知られています。

生い立ちと子規との出会い

碧梧桐は、伊予松山藩士の五男として生まれました。父親は、正岡子規の漢学の師でもあり、その縁から子規と出会います。同級生であった高浜虚子とは、子規の門下生となる以前から親交があり、共に俳句を学びました。子規没後、虚子が「ホトトギス」を主宰する一方で、碧梧桐は新聞「日本」の俳句欄を担当。この頃から、従来の俳句にとらわれない「新傾向運動」を推進し始めます。

俳句革新運動と全国行脚

碧梧桐は、季題や定型に縛られない自由な俳句を提唱し、その革新的なスタイルは多くの賛同者を集めました。1906年からの3年間には全国行脚を行い、自らの俳句理論を広めました。しかし、大正時代に入ると、守旧派の立場を取る高浜虚子との対立が激化し、碧梧桐の提唱した「新傾向俳句」は徐々に衰退していきます。この対立は、当時の俳壇を二分する大きな出来事でした。

その後の活動と晩年

碧梧桐は、新傾向俳句から更に発展した自由律俳句の旗手である荻原井泉水と行動を共にしますが、後に袂を分かちます。その後、俳誌『海紅』を創刊するも、これも中塚一碧楼に譲ります。晩年には、漢語にルビを振る「ルビ俳句」を試みるなど、新たな表現を模索しましたが、支持を得るには至りませんでした。1933年、還暦祝賀会の席上で俳壇からの引退を表明。1937年、腸チフスが悪化し、敗血症を併発して亡くなりました。享年63歳。

碧梧桐の俳句の特徴

碧梧桐の俳句は、伝統的な五七五の形式や季語にとらわれず、日常の感情や風景を自由に表現する点に特徴があります。その作風は、当時の俳壇に大きな衝撃を与え、後の俳句に大きな影響を与えました。

代表句

蕎麦白き道すがらなり観音寺
赤い椿白い椿と落ちにけり
相撲乗せし便船のなど時化となり
雪チラチラ岩手颪にならで止む
ミモーザを活けて一日留守にしたベットの白く
曳かれる牛が辻でずっと見回した秋空だ

著作

碧梧桐は、俳句集だけでなく、随筆や俳句理論に関する著作も数多く残しています。主な著書には以下のようなものがあります。

俳諧漫話（1903年）
俳句評釈（1903年）
其角俳句評釈（1904年）
蚊帳釣草（1906年）
新俳句研究談（1907年）
三千里（1910年）
続三千里（1914年）
新傾向句集（1915年）
碧梧桐句集（1916年）
碧梧桐は斯う云ふ（1917年）
支那に遊びて（1919年）
八年間（1923年）
二重生活（1924年）
子規乃第一歩（1925年）
画人蕪村（1926年）
新興俳句への道（1929年）
山を水を人を（1933年）
子規を語る（1934年）
煮くたれて（1935年）
山水随想（1937年）
子規の回想（1944年）
碧梧桐句集（1954年）
碧梧桐全句集（1992年）
なつかしき人々（1992年）
河東碧梧桐 (1996年)
河東碧梧桐全集（2001-2009年）
碧梧桐俳句集 (2011年)
碧梧桐句集 (2015年)
河東碧梧桐の百句 (2024年)

碧門の人々

碧梧桐に師事した俳人たちです。以下に一部を紹介します。

寺野守水楼
菅原師竹
筏井竹の門
森田雷死久
牛島藤六
戸沢百花羞
大谷句仏
川西和露
塩谷鵜平
喜谷六花
広江八重桜
戸沢撲天鵬
小沢碧童
大須賀乙字
細谷不句
岩谷山梔子
松宮寒骨
荻原井泉水
安斎桜磈子
宮林菫哉
江口渙
中塚一碧楼
中塚響也
兼崎地橙孫
久米正雄
和田久太郎
滝井孝作
黒田忠次郎
平沢英一郎
* 風間直得

碧梧桐の評価

正岡子規は、碧梧桐と高浜虚子を「碧梧桐は冷やかなること水の如く、虚子は熱きこと火の如し」と評しました。これは、二人の性格の違いを的確に表した言葉と言えるでしょう。碧梧桐は、その革新的な俳句によって、後の俳句に大きな影響を与え、現代俳句の礎を築いた人物として、高く評価されています。

まとめ

河東碧梧桐は、俳句の革新者として、伝統的な形式や季題にとらわれず、自由な表現を追求しました。その生涯は、俳句への情熱と革新的な精神に彩られており、今もなお、多くの俳人に影響を与え続けています。

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