大黒常是

大黒常是（だいこくじょうぜ）とは

大黒常是は、江戸時代に銀座の吹所（ふきしょ）で極印（ごくいん）打ちを担当した役職であり、その職務は世襲されていました。この名称は、銀座の銀貨製造において重要な役割を果たした常是役所の長に代々与えられたものです。

大黒常是の始まり

慶長6年（1601年）、徳川家康は和泉堺の銀吹き職人である南鐐座の湯浅作兵衛に大黒常是の名を与えました。常是という名称は、もともと豊臣秀吉によって堺の南鐐座の銀細工師に与えられたものでした。

元祖・湯浅作兵衛

湯浅作兵衛は、慶長3年（1598年）に家康に召し出され、御銀吹役・御銀改役を命じられ、大黒の姓を授かりました。この時、作兵衛は宗近の刀と大黒座の黒印を賜ったとされています。ただし、この慶長3年という時期については異論も存在します。また、天正10年（1582年）に家康が明智光秀の叛乱を避けて伊賀越えをした際、作兵衛が道案内をした功績によるものという説もありますが、時期的に不自然であるとされています。

銀座設立にあたり、慶長丁銀の手本銀として菊一文字丁銀、夷一文字丁銀、そして大黒極印銀が選ばれ、家康の御覧に供されました。その結果、銀質が最も優れていた大黒極印銀が採用され、大黒常是が銀座の銀吹役を担うことになりました。この時用いられた大黒極印銀は、慶長丁銀よりも品位の高い括り袴丁銀であったとされています。

家康の命を受けた摂津の豪商末吉勘兵衛と後藤庄右衛門は、慶長6年（1601年）に大黒作兵衛常是を伏見銀座に任命することを提案しました。後藤庄右衛門については、後藤庄三郎光次の隠居後の名前とする説と、別人とする説があります。

常是と銀座の役割

銀座には、公儀御用所である銀座役所と、常是役所がありました。銀座役所は、銀座人が集まって銀地金の調達や銀貨の幕府への上納を担当しました。一方、常是役所は、丁銀や小玉銀への極印打ちと包封を担当しました。この包銀は「常是包」と呼ばれ、両替商が行う包銀とは区別されました。常是は銀座人とは一線を画し、「銀座惣中」と自称していました。

銀貨の製造過程では、銀座釻場（ませば）で灰吹銀と差銅の規定品位に基づいた調合が行われ、鋳造は常是吹所で行われました。鋳造された銀塊は検査を受けた後、常是極印役によって「大黒」「常是」「寳」などの極印が打たれました。さらに、銀座で銀の品位が正しく保たれているかを確認するため、仕上がった丁銀は抜き取り検査として糺吹（ただしふき）が行われました。糺吹は常是の手代立ち合いのもと、灰吹法によって300目の丁銀から得られる上銀の量を検査しました。

銀座が公儀灰吹銀から丁銀を鋳造する際、慶長銀や正徳銀では吹高の3%を分一銀として幕府から受け取っていました。そのうち吹高百貫目につき五百目（0.5%）を常是が吹賃として受け取りました。分一銀は元禄銀では4%、宝永銀では7%、永字銀や三ツ宝銀では10%、四ツ宝銀では13%と引き上げられましたが、常是が受け取る吹賃は常に0.5%でした。

明和9年（1772年）の南鐐二朱銀以降の定位銀貨の鋳造では、常是は銀の品位改めを辞退し、仕上がった銀貨の目方改めのみを担当することになりました。その際、常是は目方を改めた定位銀貨に「定」の極印を打ちました。また、丁銀の包封は常是の重要な役割でしたが、二朱銀からは銀座が担当する「銀座包」となり、200枚ごとの二十五両包となりました。

大黒作兵衛常是家

京都銀座は湯浅作兵衛の長男である大黒作右衛門、江戸京橋銀座は次男である大黒長左衛門がそれぞれ銀改役となり、以後、その職は世襲されました。

寛政12年（1800年）には、江戸の八代目長左衛門常房が家職を解任され、銀座機能が江戸蛎殻町へ集約移転したことに伴い、京都の十代目作右衛門常明が罷免され、蛎殻町銀座の御用を務めることになりました。

大黒家の系図

元祖・大黒作兵衛常是
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(京家) 二代目・作右衛門常好 (江戸家) 二代目・長左衛門常春
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京三代目・作右衛門常郷江戸三代目・長左衛門常信
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京四代目・作右衛門常直京五代目・作右衛門郷福江戸四代目・長左衛門常政
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京六代目・看抱作右衛門信氏京七代目・作右衛門常孝江戸五代目・長左衛門常栄
(銀座年寄日比五郎左衛門兄) ｜
江戸六代目・長左衛門常貞
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京八代目・作右衛門常柄京九代目・作右衛門常興江戸七代目・長左衛門常峯
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京十代目・作右衛門常明江戸八代目・長左衛門常房
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十一代目・作右衛門常富九代目・長左衛門常隣
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十二代目・作右衛門常最
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十三代目・作右衛門常安

大黒長左衛門家の断絶

分一銀による収入が減少した銀座を世襲した江戸八代目長左衛門常房は、滞納金を金に換算して3900両余りを納めなかったとして、寛政11年（1799年）頃から取り調べを受けました。

寛政12年（1800年）7月2日、長左衛門常房と京家十代目作右衛門常明は勘定奉行柳生久通の屋敷へ出頭するよう命じられ、常房は息子常隣を伴って出頭しました。そこで、長左衛門常房は家職を解任され、永蟄居を命じられました。一方、作右衛門常明は咎めを受けませんでしたが、取締り方が不十分であったとして厳しく叱責されました。

その後、京橋銀座にあった長左衛門家の御用道具や家作は全て没収され、作右衛門常明に与えられました。これにより、作右衛門は京都と京橋の銀座の機能を統合した蛎殻町銀座を引き継ぐことになりました。