天国と地獄 (随筆)

『天国と地獄』（Heaven and Hell）は、オルダス・ハクスリーが1956年に発表した哲学的な随筆です。ウィリアム・ブレイクの『天国と地獄の結婚』から着想を得ており、人間の意識の探求をテーマとしています。

本書でハクスリーは、鮮やかな色彩や幾何学模様の幻視、物質、幻覚剤、芸術作品、詩、そして深遠な体験との関連性について論じています。彼は「天国」と「地獄」を、人が「知覚の扉」を開いた時に体験しうる、二つの極端な神秘的状態の比喩として用いています。

ハクスリーは、瞑想、苦行、断食、ビタミン欠乏といった手段、あるいはLSDやメスカリンなどの化学物質を用いることで到達できる意識の領域を「対蹠地（あちら側の世界）」と表現しています。日常的な意識しか知らない人々には奇異に感じられるかもしれませんが、ヒマラヤの仏教徒であるミラレパもまた、苦痛を感じるためではなく、「新世界」とも呼べる意識の対蹠地、すなわち楽園を訪れるために修行に励んでいるのだとハクスリーは述べています。

現代社会においては、神秘主義を受け入れる余地のない世界観を持つ人が増え、また、かつてとは異なり、栄養不足によって人間の正常な機能が変化するような状況も少なくなっています。過去には、危険を伴う方法で心理状態を変化させる試みが行われていましたが、現代の知識水準においては、直接的な化学的作用によって安全に同様の効果を得ることが可能です。そのため、過去の手法は、まるで豚を焼くために家を燃やしてしまうような、無意味な行為にも見えるかもしれません。

ハクスリーは、1954年に発表した『知覚の扉』において、初めてメスカリンを体験した際の記録と考察を記しています。これらの著作を通して、彼は人間の意識の可能性と、それを探求する方法について深く掘り下げているのです。

書籍情報

英語
The Doors of Perception and Heaven and Hell, 1954, 1956, Harper & Brothers
1977 Harpercollins (UK), mass market paperback: ISBN 0-586-04437-X
1990 Harper Perennial edition: ISBN 0-06-090007-5
2004 Harper Modern Classics edition: ISBN 0-06-059518-3
2004 Sagebrush library binding: ISBN 1-4176-2859-6
日本語
オルダス・ハックスレー 著、今村光一 訳『知覚の扉・天国と地獄』河出書房新社、1976年3月。 NCID BN12996648。
* オルダス・ハックスレー 著、今村光一 訳『知覚の扉・天国と地獄』河出書房新社〈現代思想選〉、1984年5月。ISBN 9784309707174。 NCID BN0296035X。

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