天神崎

天神崎

和歌山県田辺市にある天神崎は、田辺湾の北岸から突き出した岬です。この地は、ナショナルトラスト運動の先駆けとなった場所としても有名です。

位置と地形

天神崎は、田辺湾の北端に位置し、目良港と芳養湾の境界にあります。岬の先端は、元島という小島からさらに海へと続いています。この一帯は、吉野熊野国立公園の一部として指定されています。岬の周囲には狭い道路が走り、先端近くには公衆便所も設置されています。

岬の大部分は岩礁海岸で、約21ヘクタールもの広さがあります。平坦な岩場（海食台）が広がり、複雑な海岸線を形成しています。岬の先端部には、丸山と呼ばれる樹木の生えた小高い丘があり、満潮時には島となりますが、干潮時には陸続きになります。丸山は、遠足や観察会の集合場所として利用されています。

内陸側は、岩の多い山林となっています。中央には、最高峰である日和山（標高36m）があり、かつて漁師が天候を判断する際に利用していました。山には小さな谷が多く、わずかながら水が流れています。かつては谷間に水田があり、現在ではビオトープ施設として活用されている場所もあります。

自然環境

天神崎は温暖な気候に恵まれており、海は湾口に位置するため、内湾と外洋の影響を両方受ける環境です。岩礁性の生物が多く、春にはヒジキが豊富に採れます。潜水すれば、サンゴ礁のような生物も観察できます。

陸上では、海岸植物群落からトベラやウバメガシを中心とした海岸林、そして松林へと植生が変化します。部分的にシイやタイミンタチバナ、ネズミモチなどの照葉樹林も見られます。谷間には湿地性の植物も生息し、オオキンカメムシなどの熱帯系昆虫や、カスミサンショウウオも確認されています。

文化

天神崎は、田辺市街地から近く、手軽な釣りや磯遊びの場として親しまれています。平らな磯は安全で収容力も高いため、小中学校の遠足にもよく利用され、複数の学校が同時に訪れることもあります。

自然保護運動が広まってからは、関西を中心に多くの学校が観察会に訪れるようになりました。また、映画「幸福のスイッチ」のロケ地にもなり、天神崎の風景が映像にも残されています。

重要性

天神崎の価値については様々な意見がありますが、保護の観点からは、身近な自然がまとまって存在すること自体が貴重だと考えられています。特に、平らで広い磯は、自然観察や教育の場として重要な役割を果たしています。また、海と陸の自然が互いに影響しあっている状態が保たれていることも、天神崎の価値を高めています。天神崎保護団体が陸側の土地を買収しているのも、このような理由からです。

天神崎の保護活動のシンボルマークとして、アラレタマキビが採用されているのも、身近な生物を守るという思想を反映したものです。

自然保護活動

天神崎が全国的に有名になったきっかけは、1974年に発覚した開発計画に対する反対運動でした。当時、田辺商業高校の教師であった外山八郎氏が中心となり、「天神崎の自然を大切にする会」が発足し、署名運動や募金活動を展開しました。

当初、開発業者は計画を縮小しましたが、「大切にする会」は運動を継続し、土地の買い取りを決意しました。募金活動は難航しましたが、県や田辺市の支援もあり、1985年に全ての土地の買い取りを完了しました。この活動は、ナショナル・トラスト運動の先駆けとなり、1987年には「大切にする会」が自然環境保全法人（ナショナル・トラスト法人）の第一号に認定されました。

現在も「大切にする会」を中心に、土地の買い取りや観察会などの活動が続けられ、天神崎の自然が守られています。

文化財

天神崎は、名勝「南方曼荼羅の風景地」の一部として指定されています。

参考文献

河村宏男『天神崎を守った人たち』(1989)朝日新聞社

外部リンク

天神崎の自然を大切にする会

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