天経或問

『天経或問』についての概要

『天経或問』（てんけいわくもん）は、清代初期に成立した西洋天文学および宇宙論に関する入門書です。この書は康熙14年（1675年）頃に著され、著者は游藝（游子六）です。本書はイエズス会の宣教師によって広められた天動説や地球の球体説を紹介しており、特に日本において盛んに読まれました。また、康熙20年（1681年）に書かれた続編『天経或問後集』があり、これと区別するために『天経或問前集』として知られています。

著者のプロフィール

游藝は、生没年や具体的な経歴が不明な人物ですが、福建省建陽県出身とされており、北宋の有名な学者である游酢の末裔です。彼は、明末清初の江南地区で学問を修め、イエズス会士と直接交流した学者たちのグループに参加しました。特に方以智や熊明遇から学んだことが知られています。

書の構成と内容

本書は序文に張昌亮、張自烈、余颺、掲暄、方以智といった五人の序文が寄せられており、続いて「古今天学家」や「天経或問引用書目」といった章があり、中国の科学技術史に関連する重要な人物や書籍が列挙されています。本文は、問答形式のスタイルで構成されており、「天巻」と「地巻」の二部から成っています。「地巻」では天文学に引き続き気象学や地学の内容が精査されています。

天文学の内容は、アリストテレスとプトレマイオスに基づく宇宙観を紹介し、七曜の運行や日食、月食、ティコ・ブラーエの周転円説に言及されています。ガリレオについても触れられていますが、地動説に関しては言及しません。本文では、方以智の技術的な用語が使用されており、西洋の学問が質測において優れているが通幾において劣るとし、宋学的な視点から西洋学問を咀嚼しています。

書の受容と影響

清代の中国においては、『四庫提要』に本書の存在が示されたものの、特別な評価は得られませんでした。しかし、日本では1670年代から1680年代にかけて両書が輸入され、『天経或問後集』は禁書とされましたが、本書は南部草寿によって許可を得て広く読まれるようになりました。このことから、本書は西洋の学問を理解するためのわかりやすい入門書としての役割を果たしました。

本書はその後、享保の改革による洋書緩和の際に和刻本が刊行され、それにより多くの読者を魅了しました。著名な注釈者たちが多く本書について注釈を行い、益々の人気を誇ったことがわかります。

本書の社会的影響

特に地球の球体説は、本書の普及により日本に浸透しました。このことは仏教に対立する考え方にもつながり、仏僧たちは須弥山説を擁護するための論を展開しました。そうした観点から、仏教と西洋の天文学の衝突が見られる年代でもありました。

現存本と現代の状況

『天経或問』に関する現存する記録の中では、清代の刊本や写本よりも和刻本や和写本の方が多く見つかっています。この書は現代語訳は存在しないものの、多くの注釈書が残されており、その学問的な影響は今もなお感じられています。

『天経或問』は、歴史の中で農業や気象学といった分野においても重要な役割を果たし、また、江戸時代の教養として重要な位置を占めていました。この書の存在は、中国と日本の学問的な交流の一環として、大きな意味を持っていたのです。

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