天逆鉾

天逆鉾（あめのさかほこ）

天逆鉾は、日本の中世神話において重要な役割を果たす矛であり、その存在はさまざまな解釈があります。一般には記紀に登場する天沼矛の別名とされていますが、その位置付けや性質には大きな違いがあります。特に宮崎県と鹿児島県の境に位置する高千穂峰の頂に立てられた天逆鉾が、特に有名です。

由来と変遷

天逆鉾は元来、記紀神話の一部として登場します。神話によると、夫婦神の伊邪那岐（イザナギ）と伊邪那美（イザナミ）は、漂っていた大地を形作るために天沼矛を渾沌とした大地に突き立てました。この矛を引き抜くと、切っ先から滴った雫がオノゴロ島となったとされ、これは日本の国産みに関連しています。

しかし、中世に入ると仏教の影響を受けてこの神話の解釈が多様になりました。修験道の神道書『大和葛城宝山記』によれば、天沼矛は天地開闢の際に発生した霊物であり、魔を打ち返す力を持つとされる独鈷杵に見なされています。このため、天魔反戈という別名も持つようになりました。また、天孫降臨の際に関わった邇邇芸命は、この矛を「杵」として地上を平定する存在として解釈されました。

一方、他の神道書である『天地麗気府録』では、天逆鉾はオノゴロ島に立てられた金剛杵であると記され、これに基づく伝承も広がりました。こうした様々な解釈は、天逆鉾が地上に存在する神宝とされる理由の一つです。

所在の説

天逆鉾の具体的な所在については、いくつかの神道書で論じられています。『大和葛城宝山記』によると、天魔反戈は内宮滝祭宮に位置しているとされ、伊勢神道の『神皇実録』ではサルタヒコの宮処の璽と見なされています。また、『倭姫命世記』では、天照大神が天から天逆鉾を伊勢に投げ下ろし、内宮御酒殿で大切に保管されているとされています。

高千穂峰の伝承

天逆鉾は、大国主神を通じてニニギに譲り渡され、国家の平定に寄与したとされています。その後、国家の安定を願い、二度と振るわれることのないようにとの願いを込めて高千穂峰に突き立てられたという伝説があります。高千穂の天逆鉾は、霧島六社権現の一つである霧島東神社の社宝とされています。この矛の由来は謎に包まれており、奈良時代から存在したとも言われています。

坂本龍馬が高千穂峰を訪れた際に天逆鉾を引き抜いて見せたというエピソードもあり、その手紙は龍馬記念館に保存されています。しかし、この天逆鉾は火山の噴火によって折れ、現在残っているのはレプリカです。オリジナルの矛の柄は地中に残り、刃の部分は回収された後、島津家に献上され、近くの荒武神社に奉納されましたが、その後行方不明となっています。

まとめ

天逆鉾は日本の神話や伝承において、象徴的な存在であり、その由来や伝説は多様です。高千穂峰に立てられた天逆鉾は、その地点に伝承される物語とともに、今も多くの人々に愛されています。県境の神社を通じて、現代においてもその存在が語り継がれています。

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