天野元信

天野元信：信仰に生きた武士の生涯

天野元信は、戦国時代末期から江戸時代初期にかけて、毛利氏に仕えた武士であり、熱心なキリシタン（キリスト教徒）でもありました。彼の生涯は、信仰と主君への忠義、そして時代の波に翻弄された悲劇的なものでした。

天野氏の出自

元信の属する安芸天野氏は、藤原南家工藤氏の流れを汲み、安芸国に下向して国人化した一族です。天野氏には、元信の系統である金明山天野氏と、天野興次・興定・元定の一族である生城山天野氏の二つの系統が存在しました。

毛利氏への仕官と萩城築城

元信は天野隆重の子として生まれ、兄・元明の養子となり天野家の家督を継ぎました。慶長5年（1600年）の毛利氏の防長移封後、毛利輝元は新たな居城として萩城の築城を開始します。しかし、この築城工事において、益田元祥の家臣が工事用の石材を盗んだことが発覚し、工事の遅延を招きました。

五郎太石事件と殉教

慶長10年（1605年）、萩城の築城遅延を理由に、元信は輝元によって派遣された桂元綱らによって殺害されます。この事件は「五郎太石事件」と呼ばれています。さらに、元信の岳父である熊谷元直や、嫡男の与吉ら幼い子供たちも共に殺害されました。

この事件の背景には、輝元が元信にキリスト教の棄教を命じたものの、元信がこれに応じなかったことがあったとも言われています。元信は熊谷元直と共に、キリスト教の信仰を守り抜いた殉教者として、現在も敬われています。

天野元信から学べること

天野元信の生涯は、戦国時代から江戸時代への移行期における武士の生き方、信仰の自由、そして権力者の思惑など、様々な要素が絡み合った複雑なものでした。彼の悲劇的な死は、私たちに歴史の教訓として、信仰の尊さ、自己の信念を貫くことの重要さを教えてくれます。

参考文献
* 光成準治『毛利輝元 西国の儀任せ置かるの由候』ミネルヴァ書房〈ミネルヴァ日本評伝選〉、2016年5月。ISBN 462307689X

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