太巻き祭り寿司

太巻き祭り寿司（ふとまきまつりずし）

概要

太巻き祭り寿司は、千葉県を代表する郷土料理の一つで、断面に絵柄が現れるのが特徴的な巻き寿司です。別名、太巻き寿司、房総巻き、房総太巻き寿司、絵巻き寿司などとも呼ばれています。2007年には農林水産省の「ふるさとおにぎり百選」、「農山漁村の郷土料理百選」に千葉県代表として選ばれるなど、その地域を代表する料理として知られています。

千葉県内全域で食されていますが、特に市原市、茂原市、勝浦市、木更津市、千葉市、東金市、成東地域（現・山武市）で盛んに作られています。太巻きの断面は金太郎飴のように華やかで、椿、あやめ、チューリップなどの定番の絵柄のほか、パンダやアンパンマンなどのキャラクター、飛行機や新幹線など、子供が喜ぶような絵柄もよく見られます。これらの絵柄は、単に見た目を華やかにするだけでなく、作る過程を楽しむ要素も含まれています。手間とコストがかかるため、商品としては流通しにくい側面もありますが、近年ではその手作りの良さが見直されています。

歴史

千葉県では古くから、冠婚葬祭などの家庭行事の際に、太巻き寿司が「御馳走」として作られてきました。その際、客人や家族で食べるだけでなく、手土産としても用いられていました。初期の太巻きは、直径5センチメートル程度のものが主流でしたが、玉子焼きで巻いたものは7センチメートルから8センチメートルほどありました。1本あたり450グラムから600グラムと重量があり、持ち帰る際には重く手ごたえのあるものでした。また、イワシを追ってきた紀州の漁師の弁当「めはりずし」がルーツとする説もあります。

1978年に千葉県農業改良課がまとめた『房総のふるさと料理』には、1800年頃から、ずいきを甘辛く煮たものを芯にするようになったことが記載されています。これが巻き寿司の始まりであるとされています。かんぴょうの使用時期は不明ですが、1900年頃には赤く染めたかんぴょうが使われるようになり、祝い事や祭りでも作られるようになりました。1970年代になると、緑色に染めたかんぴょうも用いられ、地域ごとに多様な図柄を入れるようになりました。海苔で巻く方法が昔から主流でしたが、養鶏が普及した大正時代末期から昭和初期には、卵焼きで巻く方法も現れました。

昭和30年代から昭和50年代にかけて、内房地域から千葉県各地へ、さらに日本全国へと広まりましたが、平成に入ると、家庭で冠婚葬祭を行う機会が減少し、作り手も高齢化が進みました。その結果、太巻き祭り寿司を教える教室も減り、若い世代では知らない人も増えています。

「太巻き祭り寿司」という名前は、1950年頃から房総太巻き寿司の調査・研究をしていた龍崎英子によって名付けられました。

材料

米: 良質な米を使用します。太巻き寿司用に特別に選ばれたものが使われることもあります。
寿司酢: 各家庭で独自の工夫が凝らされ、甘めの味が好まれる傾向があります。砂糖を多めに配合することで、ご飯の艶を良くし、時間が経っても固くなりにくくする工夫がされています。
海苔: 上質な海苔が用いられます。図柄を作るために中に巻き込む細巻きには、中程度の海苔が使われることもあります。
かんぴょう: 食用色素で染め煮したかんぴょうが使われていましたが、近年ではツルムラサキの実（紫色）やクチナシの実（黄色）など、天然色素を使ったものが増えています。
桜でんぶ: 花びらなどを表現するために使われます。
ニンジン: 発色を良くするため、醤油を使わず塩水で煮ます。
ホウレンソウ: かつてはかんぴょうを緑色に染めたもので代用されていましたが、草花の葉を表現するのに欠かせない食材です。ホウレンソウが手に入らない時期には、サヤインゲン、キュウリ、シマ瓜などで代用されていました。
山ゴボウの味噌煮: 木の枝などを表現するのに使われます。

文様

太巻き祭り寿司の切り口の模様には、それぞれ名前がついており、40種類以上の文様が確認されています。巻き方は各家庭の秘伝とされていることも多く、地域によっても異なります。同じ文様でも、単に「花」と呼ぶこともあれば、「チューリップ」と呼ぶこともあります。

文様の歴史

大正時代から昭和初期にかけて、千葉県での海苔の生産量が増加したことで、細巻きを組み合わせた「三色巻」や「二つ巴」などが作られるようになりました。その後、食紅などで染めたかんぴょうが使われるようになり、「チューリップ」、「サザエ」、「二つの花」などの文様が作られるようになりました。かつては、文様の作り方は各家庭で伝えられており、その技法は公にはされていませんでした。しかし、昭和40年頃に君津市で生まれた水野衣音が、新しい創作柄を考案し、花や動物、昔話、節句に合わせた幅広い文様を千葉県各地で教えました。水野は、房総太巻き寿司を広めた先駆者と言えるでしょう。この時期に作られた太巻き寿司のレプリカは、袖ケ浦市郷土博物館に展示されています。

大東まつり寿司

沖縄県の大東諸島にも、卵焼きで巻くなど千葉県の太巻き祭り寿司と酷似した太巻き寿司が存在します。大東諸島は、主に八丈島と沖縄からの移民によって開拓された島であり、千葉県からの移住者も少数ながら存在していましたが、関連性や伝搬の経緯は不明です。

参考文献

『房総のふるさと料理』千葉県農業改良協会、1987年
龍崎英子『母と子の楽しい太巻き祭りずし作り方教室』東京書店、2009年。
水野衣音『あなたにもつくれる手巻ずし100種: カラーイラストでつくる手巻ずし』コジマ印刷、1984年。
君津市連合婦人会（編）『ふるさと四季の味 伝えたい母の味』うらべ書房、2003年
大久保洋子『江戸の食空間―屋台から日本料理へ』講談社〈講談社学術文庫〉、2012年
喜田川守貞『近世風俗志』

関連項目

巻き寿司
飾り寿司

外部リンク

* 太巻き寿司（文銭巻き） - 成田市

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