太田實 (実業家)

太田實：明治を駆け抜けた革新者

太田實（おおた みのる）は、安政5年（1858年）に淡路国（現：兵庫県淡路市）に生まれ、大正7年（1918年）に60歳で没した人物です。彼は、明治時代という激動の時代に、内務官僚、政治家、そして実業家として多岐にわたる分野で活躍しました。特に、日本初の常設水族館である浅草公園水族館の設立者として、その名を知られています。

生い立ちと教育

太田は、徳島藩の士族の家系に生まれました。幼少の頃から学問に秀で、藩校で優秀な成績を収めました。その後、ドイツ語を学び、期成学校を卒業。洲本師範学校の教員に推挙されますが、家業の再興を勧められると、東京へ脱出するという大胆な行動に出ます。

上京後、太田は苦労を重ねながらも、第2大区学務主任の書記として働き始めます。この時期に、小笠原諸島の建築工事の請負に携わったことが、彼の人生に大きな影響を与えました。

小笠原諸島での経験

明治9年（1876年）、小笠原諸島が内務省の直轄となると、太田は建築工事の請負を申請し、許可を得ます。しかし、父島での工事中に木材を流失するなどの困難に直面し、事業を他人に譲って出張所の雇員となりました。この経験を通じて、彼は小笠原諸島の漁業の可能性に気づき、帰京後に捕鯨事業を遊説しますが、当時は理解を得られませんでした。しかし、この時の見聞が、後の水産業への貢献の原点となります。

大日本水産会の創立と水産業への貢献

小笠原諸島での経験から水産資源の重要性を確信した太田は、内閣に水産局の設置を建議します。明治14年（1881年）には、品川弥二郎らと共に大日本水産会を創立し、規則確定委員としてトップ当選を果たしました。その後も、水産共進会の開催や水産伝習所の創設に尽力し、日本の水産業の発展に大きく貢献しました。

明治日報と忠愛主義

太田は、明治14年（1881年）に丸山作楽らと忠愛社を創立し、『明治日報』を発刊して主幹を務めました。同紙は政府弁護の立場を取り、保守的な論調を展開しました。太田は、忠愛社の主旨を広めるため、東海道、南海道を巡遊し、各地で講演活動を行いました。しかし、民権運動の高まりを目の当たりにし、立憲帝政党には加わらず、独自の道を歩むことになります。

内務官僚、本所区長としての活躍

『明治日報』を去った後、太田は再び官僚として内務省に勤務し、衛生局で統計課長などを歴任しました。明治19年（1886年）には、東京府本所区長に就任し、教育の普及に尽力しました。幼稚園の新築や小学校の増築、貧困家庭の子弟のための教育義社設立など、教育環境の整備に力を注ぎました。また、種痘義社を設立し、区民への種痘を奨励するなど、公衆衛生の向上にも貢献しました。

衆議院議員としての活動

明治23年（1890年）の第1回衆議院議員総選挙で、太田は東京第五区から立候補し当選しました。政府系の大成会に所属し、議会では予算委員会や取引法案委員会で積極的に発言しました。しかし、第3回総選挙で落選し、政界を引退。その後は実業家としての道を歩むことになります。

実業家としての挑戦：浅草公園水族館の設立

政界を引退後、太田はかねてからの夢であった水産業に関する事業に乗り出します。明治32年（1899年）には、資本金3万円で株式会社水族館を設立し、浅草公園に日本初の常設水族館である浅草公園水族館を開設しました。この水族館は、教育参考館としても機能し、多くの人々に親しまれました。

その後、大阪にも日本水族館を開業しますが、浅草公園水族館は活動写真館の登場などにより客足が減少し、経営難に陥ります。太田は社長を退任し、水族館は他者の手に渡りました。しかし、浅草公園水族館はその後も存続し、川端康成の小説にも登場するなど、浅草の名所として親しまれました。

その他の事業と晩年

浅草公園水族館の他にも、太田は房総鉄道の再建後の初代社長を務めるなど、様々な事業に携わりました。晩年は結核を患い、兵庫県舞子の料理旅館で静養しましたが、大正7年（1918年）に60歳でその生涯を閉じました。

太田實は、常に新しいことに挑戦し、社会の発展に貢献しようとした人物でした。彼の情熱と行動力は、現代に生きる私たちにも多くの示唆を与えてくれます。

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