奥医師

奥医師（おくいし）について

奥医師は、江戸幕府に仕える医官であり、将軍及びその家族の健康を守る役割を担っていました。この医官は、若年寄の支配下にあり、将軍が居住する「奥」に常駐していました。奥医師は、近習医師、御近習医師、御側医師とも呼ばれ、ほとんどが世襲制であったものの、諸大名の藩医や町医者からも選ばれることがありました。

奥医師の組織

奥医師には、以下のような職位があります。

• - 典薬頭（てんやくのかみ）: 奥医師の中で最も高位な職であり、半井氏と今大路氏の二つの家系がこの地位を世襲していました。典薬頭は従五位下の官位を持ち、半井氏は1500石、今大路氏は1200石の石高を有していました。

• - 奥医師: 一般的な奥医師は200俵の禄高を持ち、役料も同じく200俵を受け取ることが通常でした。特に、西の丸に付属した奥医師も存在しました。

• - 番医師: 御番医師、表御番医師とも呼ばれ、200俵以下の禄高で役料100俵が支給されました。彼らは通常、自らの医業を通じて殿中の病人や怪我人の治療を行いました。

• - 寄合医師: 精通した医術を持つ者が選ばれますが、平時は登城せず、緊急時に備える形で活動します。彼らには役料は支給されていません。

• - 小普請医師: 武士や町人の治療を担当し、医業の修行を続けている者で、30人扶持が支給されることが一般的です。

• - 養生所医師: 小石川養生所の医師で、家業の実績をもとに選ばれます。池の肝煎も世襲され、多くは寄合医師や小普請医師からの出役です。

また、御広敷見廻りの役割を果たす医者や、奥詰医師、目見医師なども存在しました。

奥医師の業務内容

奥医師は、交代制で江戸城に登城し、「御医師の間」に詰めることが定められていました。将軍が朝食を終える際には、医師たちは将軍の脈を測るために集まり、医療的な診断を行っていました。将軍の脈を測った後には、各医師が診断結果を持ち寄り、異常があればさらなる腹診を行うことが求められました。

さらに、御台所や側室たちの定期健康診断や、将軍の子息たちの診察も行われ、場合によっては全ての奥医師が招集されることもありました。病人の治療法が決まると主治医が選ばれ、ときには、典薬頭が統括する形で治療方針が進められました。

奥医師が登場する作品

奥医師の存在は、さまざまな文献や作品に描かれています。特に、漫画や小説ではその職業が興味深く紹介されており、『陽だまりの樹』、テレビドラマ『JIN-仁-』、さらには『胡蝶の夢』などがその例です。

参考文献

• - 新人物往来社編 編『大江戸役人役職読本』
• - 川口謙二ほか『江戸時代役職事典』

奥医師の制度は、江戸時代の医療の発展を支える重要な役目を果たし、現代に引き継がれる医療制度への道筋を築いたのです。

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