女性神職装束

女性神職装束（女子神職装束）とは

女性神職装束、または神社本庁で用いられる正式名称である女子神職装束（じょせいしんしょくしょうぞく）は、神に仕える女性の神職が身にまとう特別な衣服を指します。これは、神職の資格を持たない巫女や神楽などを奉納する舞女の装束とは明確に区別されるものです。

装束規定の歴史的変遷

女子神職の装束に関する規定は、時代の変化と共に改定されてきました。第二次世界大戦終結後の昭和21年（1946年）に制定された旧規定では、正装として「袿袴（けいこ）」、礼装として「白い袿袴」または「水干」、そして常装として「水干」が定められていました。このうち袿袴は、足の甲まで届く長さの切袴と、その上に重ねる袿から成り、見た目は豪華絢爛でしたが、その構造上、動きに大きな制約がありました。

こうした動きにくさという課題を解消し、より活動的な装束とするため、昭和63年（1988年）に新たな服制が制定され、現在に至っています。現行の装束は、かつて宮中に仕えた下級女官の衣服とされる采女装束と、旧規定の袿袴の要素を折衷したデザインが採用されています。ただし、旧規定で常装とされた水干は、現在でも男子神職の狩衣のように裾を袴の外に出して着用されており、紐で襟元を結ぶ様式は、首元にリボンをつけたような独特の見た目をしています。

現行の服制（昭和63年規定）

昭和63年に制定された現行の服制では、女子神職の階級（特級、一級、二級上、二級、三級、四級）に応じて、正装、礼装、常装のそれぞれに細かな規定が設けられています。

正装

正装は最も格式高い装束であり、特定の神事や儀式で着用されます。白絹で仕立て、後述の唐衣（からぎぬ）を省略したものが礼装となります。

髪上具（髪飾り）: 釵子（さいし）に心葉（こころば）を挿し（正装のみ）、白色の日陰の糸（ひかげのいと）をつけます。
唐衣: 色の規定はありませんが、古来より特定の身分以外が用いることを禁じられた禁色（きんじき）や、祝い事に用いない忌色（いみいろ）は避けます。二級以上の階級では二重織物（夏は紗）が用いられ、紋様は縫取織りで表されます。三級・四級では有紋の固地綾（夏は文紗）が基本です。大きな式典では、この上に小忌衣（おみごろも）を重ね着することもあります。
表衣（うわぎ）: 唐衣と同様に色の規定はありませんが、禁色や忌色は避けます。特級・一級は綾地に縫取（夏は練薄・縫取・顕文紗）、二級上・二級は有文綾（夏は練薄・顕文紗）、三級・四級は有文綾（夏は顕文紗）が用いられます。
単（ひとえ）: 萌黄色または紅色の綾織物で、幸菱（こうびし）の地紋が入ったものが規定されています。
切袴（きりばかま）: 長袴を膝下で裁断し、ネジまち仕立てにした袴です。階級によって色や素材、紋様が異なります。特級は白の固織物に藤丸文様、一級は紫の固織物に藤丸文様、二級上は紫の固織物に藤丸文様共緯、二級は無地の紫平絹、三級・四級は無地の浅葱（あさぎ）色平絹が標準です。
扇: 檜扇（ひおうぎ）を用います。曲尺八寸八分（約26.6cm）の扇骨十六橋から成り、胡粉（ごふん）などで色絵が描かれています。六色の飾り紐がつきます。礼装の場合は無地の檜扇に白色の飾り紐となります。
帖紙（たとうがみ）: 紅色の鳥の子紙を用いますが、礼装の場合は白色です。
履物: 浅沓（あさぐつ）を履きます。一級以上の階級では、沓敷き（くつじき）に紋様を織り出した白い綾が用いられ、二級上以下の階級では白い平絹が標準です。

常装

常装は日常的な勤務や比較的略式の神事で用いられる装束です。

額当（ぬかあて）: 黒い紗（しゃ）でできた額当てを着用します。
表衣: 正装とは異なり、唐衣は着用しません。一級以上の階級では綾、薄い練絹、縫取織、顕文の紗、平絹の中から選ばれ、二級上と二級では縫取織を除いたもの、三級・四級ではさらに薄い練絹も除いたものが用いられます。
単: 正装に準じたものが用いられますが、省略することも可能です。
切袴: 正装に準じた袴を着用します。
扇: 十五橋のぼんぼり扇を用います。
履物: 正装に準じた浅沓を履きます。

規定の運用と現状

昭和63年の現行服制では、階級に応じた織物の種類や紋様が細かく定められていますが、これらの規定が厳密に守られているかについては、必ずしも徹底されていないとの指摘があります。また、装束の着付けについても、十分な指導が行き届いていないためか、規定とは異なる着方をしている女子神職も少なくない現状があるようです。髪型についても、規定上は垂髪（ときさげ）を通例とするとされていますが、実際に垂髪にしている女子神職は非常に稀であると言われています。

巫女装束との違い

改めて強調すべき点として、巫女は神職とは位置づけが異なり、神職に必要な資格を必須とはしません。そのため、女子神職装束のように細やかな服制は定められていません。巫女の装束に関する詳細は、別途「巫女装束」の項目を参照してください。

女子神職装束は、その歴史的変遷と細やかな規定の中に、日本の伝統と現代の働きやすさを両立させようとする試みが見て取れる、興味深い装束と言えるでしょう。

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