女神散

女神散（にょしんさん）

女神散は、江戸時代の医師・浅田宗伯の著書『勿誤薬室方函』に収載されている漢方薬です。古くは安栄湯（あんえいとう）とも呼ばれていました。主に婦人科領域で使用されますが、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸といった他の代表的な婦人科処方に比べると、処方頻度は高くありません。

効果・効能

女神散は、体力中程度以上で、のぼせやめまいを訴える方の以下の症状に効果があるとされています。

産前産後の神経症
月経不順
血の道症
更年期障害

これらの症状は、「気滞血瘀（きたいけつお）」、「心火旺（しんかおう）」、「気血両虚（きけつりょうきょ）」といった状態が複合的に関与していると考えられます。女神散は、これらのバランスを整えることで、症状の改善を目指します。

古くは、武士が戦場で受けた心の傷を癒すためにも用いられたと伝えられています。「軍中七気」と呼ばれる、喜び、怒り、憂い、思い、悲しみ、驚き、怖がるといった激しい感情の乱れを鎮める効果が期待されていたようです。戦場では、生薬を布に包んで湯に浸し、即席の薬として用いたという記録も残っています。

加味逍遙散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散との比較

婦人科領域でよく用いられる漢方薬として、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散があります。女神散との使い分けについて見ていきましょう。

加味逍遙散：神経症で興奮状態が強い場合に適しています。女神散は、抑うつ状態に効果を発揮することが多いです。
桂枝茯苓丸：女神散と同様に瘀血（おけつ）を改善する作用がありますが、桂枝茯苓丸には、気逆上衝（きぎゃくじょうしょう）や水気逆行（すいぎゃくぎょう）を鎮める桂皮と茯苓が含まれています。一方、女神散には茯苓は含まれず、代わりに甘草が含まれています。
当帰芍薬散：補血と利水の作用に優れています。水滞（すいたい）の兆候が見られる場合は当帰芍薬散、気の異常が見られる場合は女神散が適していると考えられます。

組成

女神散は、以下の生薬から構成されています。

当帰（トウキ） 3-4
川芎（センキュウ） 3
白朮（ビャクジュツ） 3
香附子（コウブシ） 3-4
桂皮（ケイヒ） 2-3
黄芩（オウゴン） 2-4
人参（ニンジン） 1.5-2
檳榔子（ビンロウジ） 2-4
黄連（オウレン） 1-2
木香（モッコウ） 1-2
丁子（チョウジ） 0.5-1
甘草（カンゾウ） 1-1.5
大黄（ダイオウ） 0.5-1

これらの生薬は、君臣佐使（くんしんさし）という役割分担に基づいて配合されています。

君薬：香附子。気の巡りを良くし、月経を整え、痛みを和らげる効果があります。
臣薬：黄連、黄芩、大黄、桂枝。湿熱を取り除き、熱を冷ます効果や、胃の不快感を改善する効果があります。
佐薬：当帰、川芎、人参、白朮。血を補い、身体を滋養する作用や、消化吸収機能を高め、気を補う作用があります。
使薬：檳榔子、木香、丁子、甘草。消化を助け、気の流れを良くする作用や、胃腸を温め、それぞれの生薬の調和を図る作用があります。

女神散は、これらの生薬が相互に作用し合うことで、心身のバランスを整え、様々な症状の改善に貢献します。

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