トウキ

トウキ（当帰）について

トウキ（当帰、学名: Angelica acutiloba）は、セリ科シシウド属に分類される多年草です。その根は、漢方薬の重要な生薬として用いられ、古くから人々の健康を支えてきました。

名称の由来

「当帰」という名前は、中国の伝説に由来します。病に苦しむ妻を心配した夫が家を離れてしまったため、妻は教えられた薬草を煎じて飲んだところ、病気が回復しました。妻が「夫よ、当に帰るべし」と言ったことから、この薬草を「当帰」と名付けたと言われています。

日本では、ニホントウキとも呼ばれます。一般的には、大和当帰や北海当帰という名称で流通していますが、本来の当帰は中国原産のカラトウキ（Angelica sinensis）を指します。本種トウキの中国植物名は東当帰（とうとうき）です。

特徴

トウキは、本州中部以北の山地に自生し、岩の間などに生育します。北海道、奈良県、和歌山県、兵庫県などで薬用として栽培もされています。

多年草で、草丈は40cm程度。茎や葉柄は赤紫色を帯びています。葉は互生し、2～3回3出羽状複葉で、小葉は切れ込みがあり、縁には鋸歯があります。葉柄の基部は鞘状に膨らみ、茎を抱きます。

花期は初夏から夏（6～7月）。枝先に白い傘状の花を咲かせます。花は5弁花で、花弁は内側に曲がります。果実は長楕円形で、全草にセロリに似た強い芳香があります。

歴史

中国の漢方で使われるトウキはカラトウキで、日本のトウキとは成分や香りが異なります。江戸時代には、各地の藩でトウキの栽培が推奨され、大和当帰、越後当帰など、産地によって様々な名称で呼ばれていました。

特に、大和国（奈良県）で栽培された「大和当帰」は、優れた品種として知られ、幕府の薬種業振興政策にも貢献しました。現在では、大和当帰の生産はほとんど絶滅しており、代わりに国内外で生産されるトウキやホッカイトウキが使用されています。

利用法

トウキは薬用植物として栽培され、秋に根を掘り採り、乾燥させたものが生薬として利用されます。根には、ブチリデンフタリド、カルバクロル、カンフェンなどの精油が含まれており、鎮静作用や血液循環を促進する効果があるとされています。

漢方では、補血、強壮、鎮痛、鎮静などの目的で、四物湯、当帰芍薬散などの処方に配合されます。民間療法では、冷え症、生理痛、便秘などに、煎じて服用する方法が知られています。ただし、生理中の出血が多い場合や、下痢気味の場合は禁忌とされています。

また、秋に刈り取った茎葉を乾燥させ、風呂に入れると、不眠症や肩こりに良いとされています。

下位分類

日本には、トウキ以外にも、ミヤマトウキ（イワテトウキ）が分布しており、同様に薬用として用いられています。

ツクバトウキ Angelica acutiloba (Siebold et Zucc.) Kitag. f. tsukubana Hikino
ミヤマトウキ A. acutiloba (Siebold et Zucc.) Kitag. subsp. iwatensis (Kitag.) Kitag.
ホッカイトウキ［栽培］A. acutiloba (Siebold et Zucc.) Kitag. var. sugiyamae Hikino

脚注

貝津好孝『日本の薬草』小学館、1995年。ISBN 4-09-208016-6
佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎（他編）『日本の野生植物』 草本II 離弁花、平凡社、1982年。ISBN 4582535119。
田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社、1995年。ISBN 4-06-195372-9
林弥栄（編）『日本の野草』山と渓谷社、1983年。ISBN 4635090167
米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList）

関連項目

太乙膏
セイヨウトウキ（アンジェリカ）
リゲイン

外部リンク

Angelica acutiloba - Encyclopedia of Life
Angelica acutiloba - National Center for Biotechnology Information(NCBI)
漢方薬・生薬・栄養成分がわかる事典『当帰』 - コトバンク

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