妙寿尼

妙寿尼

妙寿尼は、戦国時代から江戸時代初期にかけての激動の時代を生きた女性です。天文14年（1545年）2月5日、播磨国印南郡（現在の兵庫県加古川市）にあった志方城の城主、櫛橋伊定の長女として誕生しました。兄に櫛橋政伊がおり、妹には後に黒田孝高（官兵衛）の正室となる光（照福院）がいます。妙寿尼自身の実名は伝わっていません。

永禄3年（1560年）、16歳になった妙寿尼は、播磨国守護職であった赤松氏の一族に連なる上月景貞のもとへ嫁ぎました。景貞は佐用郡（現在の兵庫県佐用郡佐用町）の上月城主でした。夫婦は幸せな時を過ごし、やがて二人の子宝に恵まれます。

しかし、平穏な日々は長くは続きませんでした。天正5年（1577年）11月末頃から、夫の居城である上月城を巡って、織田信長勢と毛利輝元勢の間で激しい攻防戦が繰り広げられることになります。この戦いは約7ヶ月にも及び、幾度となく城の主が入れ替わる事態となりました。天正6年（1578年）2月には、毛利方に加担していた夫・景貞が宇喜多直家の命によって再び上月城主となりますが、同年3月下旬には織田方の羽柴秀吉（後の豊臣秀吉）らが率いる大軍による猛攻と、味方の裏切りによって城はついに落城しました。

夫・景貞は、深い傷を負いながらもかろうじて城を脱出しましたが、わずかな手勢とともに秀吉の本陣を目指して最後の抵抗を試みるも叶わず、千種川沿いの山中で自らの命を絶ったか、あるいは討ち取られたと伝えられています。この時、妙寿尼はまだ幼い二人の子供たちを連れて、同じく織田方についていた義弟にあたる黒田孝高（官兵衛）の陣営へと身を寄せました。孝高は彼女たちの置かれた悲しい境遇を深く憐れみ、秀吉の許可を得て、妙寿尼と子供たちを黒田家で引き取ることにしました。その後、妙寿尼は出家し、「妙寿尼」と名乗るようになります。

二人の子供たちのうち、娘は後に小早川秀秋の家老を務めた平岡頼勝に嫁ぎました。息子は元服して上月次郎兵衛と名乗っていましたが、黒田家で養育されるうちに名を黒田正好と改め、黒田家の家臣となりました。

天正18年（1590年）3月、黒田孝高（この頃は如水と号していました）が豊前国下毛郡中津（現在の大分県中津市）の中津城に移ると、妙寿尼もこれに伴って播磨国から中津へ移り住みました。息子・正好は中津で黒田家の旗本として仕えましたが、文禄元年（1592年）に始まる文禄の役に加わり朝鮮へ渡ります。そして、同年6月15日の大同江の戦いにおいて、平壌で若くして戦死してしまいました。享年25歳という短い生涯でした。

息子の死という更なる悲劇を乗り越え、妙寿尼は黒田家と共に過ごしました。慶長5年（1600年）12月、黒田家の当主となっていた甥の黒田長政が、関ヶ原の戦いの功により筑前国（現在の福岡県）へ国替えとなると、妙寿尼も中津城から筑前糟屋郡の名島城（現在の福岡市東区名島）へと移り住みました。その後、黒田家によって那珂郡警固村福崎（現在の福岡市中央区）に福岡城が築かれると、城内の本丸西の屋敷に移り、妹である照福院（光）と同居して晩年を過ごしました。

慶長18年（1613年）11月19日、妙寿尼は筑前国の福岡にて、波乱に満ちた生涯を終えました。享年69歳でした。戒名は遍照院殿量誉妙寿尼公大姉と贈られました。その墓所は、福岡県宮若市龍徳にある光明寺にあります。夫と息子を失いながらも、黒田家の庇護のもとで強く生き抜いた女性として、その名は伝えられています。

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