志方城

志方城

志方城（しかたじょう）は、かつて播磨国印南郡、現在の兵庫県加古川市に位置していた平城です。応仁の乱後の混乱期にあたる明応元年（1492年）、この地の豪族であった櫛橋則伊（くしはし のりこれ）によって築かれたと伝えられています。志方地域における櫛橋氏の拠点として、地域の支配と安定に重要な役割を果たしました。

構造

城は中心となる本丸を深い内堀が囲み、その周囲をさらに二の丸、西の丸といった郭が取り囲む、段階的な防御構造を持っていました。複数の郭を配置することで、敵の侵入に対し、時間を稼ぎつつ防衛できる仕組みだったと考えられます。しかし、長い年月の間に城郭としての機能は失われ、遺構はほとんど現存していません。現在、当時の城の面影を残す痕跡は非常にわずかです。宝積山観音寺の山門脇に見られる高い石垣の前に、かつての深い内堀の一部が辛うじて確認できる程度となっています。

現在の姿

城の主要な跡地は、現在、それぞれ別の施設として利用されています。中心であった本丸の跡地は、現在、宝積山観音寺の境内となっています。二の丸の地には加古川市立志方小学校が建てられており、子供たちの学び舎として活用されています。また、かつて西の丸があった場所は、旧志方町役場として使用されていました。

沿革

櫛橋氏は志方城を拠点に、則伊から数えて四代にわたってこの周辺を治め、勢力を維持しました。しかし、戦国時代の動乱は、この地方にも避けがたく及びます。四代目の城主、櫛橋政伊（くしはし まさこれ）の時代、天下統一を目指す織田信長とその家臣、羽柴秀吉（後の豊臣秀吉）の勢力が播磨国に迫ってきました。天正6年（1578年）7月、織田家に反旗を翻した三木城主、別所長治（べっしょ ながはる）の動きに志方城主・政伊は同調し、反秀吉の立場を明確にしました。

これは、三木城を中心とした播磨の国衆が、織田家への従属を拒否し、反抗姿勢を示した「三木合戦」の一部をなす動きでした。しかし、羽柴軍は別所方の城を次々と攻め落としていきます。志方城周辺の状況は厳しくなり、近隣の野口城や神吉城といった別所方に与した城郭が次々と攻略され、志方城は完全に孤立無援の状態に陥りました。

さらに、三木城攻めのために秀吉の援軍として派遣されていた北畠信雄（きたばたけ のぶかつ）率いる7,500余騎という圧倒的な大軍が、志方城に向けて進攻してきました。城を守る兵は、わずかに1,000余名。数において圧倒的に不利な状況に加え、籠城が長期化する中で城内では水不足に加え、劣悪な衛生環境からか赤痢が猛威を振るいました。次々と兵が病に倒れ、まともに戦える兵は当初の半数にも満たなくなっていたといいます。外には圧倒的な敵の大軍、内には疫病という、逃げ場のない絶望的な状況でした。

こうした絶望的な状況の中、城主櫛橋政伊はついに抗戦を断念せざるを得なくなります。天正6年8月10日（グレゴリオ暦では1578年9月1日）に城を開け、北畠信雄に降伏しました。ここに志方城は落城し、その歴史的役割を終えました。

落城後、櫛橋氏の一族の多くは新たな道を歩むことになります。政伊の妹は、後の黒田官兵衛として知られる黒田孝高（くろだ よしたか）の正室でした。妹婿である黒田孝高のとりなしがあったと伝えられており、多くの櫛橋一族は助命され、黒田家の家臣として仕えることになりました。これは戦国時代においては異例ともいえる寛大な処置であり、黒田孝高の政治力と人間関係の深さを示すエピソードと言えます。

志方城が廃された後、天正15年（1587年）、宝岩宗珍和尚は、かつての城主たちの墓碑を守るため、本丸の跡地に宝積山観音寺を建立しました。これが現在の観音寺へと続いており、城の歴史を静かに伝えています。

交通アクセス

公共交通機関を利用する場合、JR宝殿駅北口から神姫バス西牧行きに乗車し、約10分で志方西口バス停に到着します。バス停からは北東へ約350メートルほど歩くと城跡周辺にたどり着くことができます。

参照文献

志方町編纂委員会『志方町誌』志方町役場、1969年

関連項目

櫛橋光
三木合戦
日本の城一覧
観音寺（志方城）
系図が刻む深いつながり　志方城跡

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