櫛橋伊定

櫛橋伊定（くしはし これさだ）

戦国時代の武将で、播磨国志方城を本拠とした城主です。黒田官兵衛孝高の正室となった光の父として後世に知られています。

氏名については、『寛政重修諸家譜』や櫛橋家の伝承では伊定とされていますが、『黒田家譜』など一部の史料では則伊（のりい）という名も見られ、この時代の櫛橋氏当主の正確な名や事績には不明瞭な点が存在します。

伊定は天文10年（1541年）、父である櫛橋伊家の死去に伴い、家督を継承しました。しかしながら、当時の伊定はまだ若年であったため、家中の実務は家臣の好田大炊助（こうだ おおいのすけ）が執権として後見したと伝えられています。

興味深いのは、同時代に書かれた史料において「櫛橋伊定」という名での具体的な活動記録があまり確認されないことです。代わりに、この時期の播磨国では「櫛橋政朝（まさとも）」という人物が「豊後守（ぶんごのかみ）」あるいは「豊後入道喜伴（ぶんごにゅうどう きはん）」といった通称で活動しており、播磨国の守護である赤松氏の家臣であったことがわかっています。しかし、この政朝と伊定が同一人物であるのか、あるいは別の関係性にあるのかは、現在のところ明確にはなっていません。また、赤松氏の系図に見える櫛橋伊則（くしはし これのり）という人物もいますが、これは義理の縁戚にあたる人物であり、伊定本人とは別人です。

伊定の居城である志方城は、当時、東播磨に大きな勢力を持っていた別所氏の勢力圏内にありましたが、同時に、西播磨の有力大名である小寺氏とも姻戚関係を結んでいました。伊定の娘の一人である光は、小寺氏の重臣であり、後に豊臣秀吉に仕えてその軍師として活躍することになる小寺孝高（黒田孝高、後の如水）に嫁いでいます。この婚姻関係は、櫛橋氏が周辺の有力勢力との間で独自の関係性を築いていたことを示しています。伊定自身は、観音寺に残る墓碑の記録によると、天正元年（1573年）に没したとされています。

伊定の治めた志方城は、天正6年（1578年）、織田信長による中国攻めに際して、羽柴秀吉（後の豊臣秀吉）率いる織田軍の攻撃を受け落城します。しかし、この時の城主が誰であったかについては、没年とされる天正元年以降であるため、伊定自身であったとする説と、その子である櫛橋政伊（まさこれ）であったとする説があり、定かではありません。また、落城時の伊定（あるいは当時の城主）の最期についても、文献によって記述が異なり、降伏して助命された、密かに城を脱出した、城と運命を共にして戦死または自害した、あるいは子である政伊と袂を分かち織田方に内通していたなど、複数の伝承が残されています。

子孫

櫛橋家に伝わる系図によると、伊定には以下の子供たちがいたとされます。

櫛橋政伊（まさこれ）: 長男。志方城主を継いだとされる人物。詳細は関連項目に譲ります。
上月景高室: 長女。妙寿尼（みょうじゅに）として知られ、こちらも関連項目で詳細が記されています。
黒田孝高室（光）: 次女。黒田官兵衛孝高に嫁ぎました。詳細は櫛橋光の項目をご覧ください。
櫛橋左内（さない）: 次男。初め三郎四郎と名乗りました。志方城落城後に黒田長政（孝高の子）に仕官し、文禄・慶長の役に従軍して朝鮮で戦死したと伝えられています。子孫は岡本姓を名乗ったとされます。
櫛橋右馬助（うまのすけ）: 三男。初め三十郎と称しました。兄の左内と同様に黒田氏に仕えました。黒田氏による豊前国人一揆の鎮圧戦に従軍しましたが、城井谷（きいだに）の戦いで討死しました。
櫛橋中務（なかつかさ）: 四男。幼名は徳松。法名は宗雪（そうせつ）と記されています。姉の光の働きかけにより、筑前国主となった黒田長政に仕えました。嫡子の政次を含め二人の子がおり、いずれも福岡藩士として黒田家に仕え続けたとされます。寛永2年3月3日（1625年4月9日）に65歳で没しました。

関連作品として、2014年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』では、俳優の益岡徹氏が櫛橋伊定を演じています。

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