妻への家路

『妻への家路』（原題：帰来）は、中国の巨匠チャン・イーモウ監督が、文化大革命を題材にした2014年の作品です。本作は、彼の過去の作品『活きる』『初恋のきた道』『サンザシの樹の下で』に続き、激動の時代に翻弄される人々の姿を描いています。

原作は、中国を代表する作家の一人である厳歌苓（ゲリン・ヤン）の同名小説です。チャン・イーモウ監督は、デビュー作『紅いコーリャン』以来の盟友であるコン・リーを主演に迎え、原点回帰とも言える作品を作り上げました。さらに、監督作『HERO』にも出演したチェン・ダオミンを「中国最高の俳優」と評し、その演技力に絶大な信頼を寄せています。

物語は、文化大革命の時代、教師の馮婉玉（フォン・ワンイー）と、バレエを習う娘の丹丹（ダンダン）が、共産党員から夫で知識人の陸焉識（ルー・イエンシー）が逃亡中であることを告げられる場面から始まります。丹丹は、革命模範バレエ「紅色娘子軍」の主役候補に選ばれていましたが、父親の逃亡により、その夢を奪われてしまいます。

焉識から「駅で会いたい」という連絡を受けた丹丹は、母には内緒で駅へ向かいますが、そこには追っ手が待ち構えていました。婉玉の目の前で焉識は捕らえられ、連行されてしまいます。その後、文化大革命が終結し、20年の時を経て、焉識は右派分子の罪を解かれ、帰宅します。しかし、妻の婉玉は、夫の事を全く覚えていませんでした。婉玉は焉識を「方」という別の男と間違えており、家族や党員が説得を試みても、記憶は戻らないままです。

娘の丹丹は、バレエを諦め、家を出て紡績工場で働いていました。焉識は、守衛室の隣に住み、妻の記憶を取り戻そうと試みます。婉玉は毎日、駅へ夫を迎えに行きます。焉識は、手紙で「5日に帰る」と伝えますが、駅でプラカードを掲げて待つ婉玉は、焉識に全く気付きません。医師からは、心因性の記憶障害と診断されます。焉識は写真を見せて思い出させようとしますが、丹丹によって、焉識の顔が全て切り取られていました。

婉玉が、かつてピアノ教師だった夫のためにピアノを調律したいと話したので、焉識は調律師としてピアノを直します。しかし、婉玉は曲を思い出すだけで、焉識を思い出すことはありませんでした。西域から届いた大量の手紙を読んであげますが、「手紙を読む人」としか認識されません。焉識は、新たな手紙を書き、丹丹と和解してほしいと頼み、ようやく娘を許します。丹丹は、父親にあの日密告したのは自分だったと告白しますが、焉識はそれを知っていました。

丹丹が家に戻り、安心したのも束の間、毛布を掛けてやると、婉玉は「方さん、出て行って」と狂乱状態になります。焉識は「方」が誰なのかを訪ねていくと、その妻が現れ、夫を返してくれと激しく訴えます。焉識は虚しく帰路につきます。病気で手紙を読めなくなった焉識のために、娘と二人で年越し餃子を持って行きます。

それから数年が経ち、雪の中、焉識は幌付きの自転車で婉玉を迎えに行きます。二人で駅へ陸焉識を迎えに行きますが、今日もまた、虚しく待つだけです。

『妻への家路』は、文化大革命という激動の時代を背景に、記憶を失ってしまった妻と、彼女を愛し続ける夫の姿を切なく描いた作品です。コン・リーとチェン・ダオミンの卓越した演技は、観客の心を深く揺さぶります。また、チャン・イーモウ監督の美しい映像と、チェン・チーガンの哀愁を帯びた音楽は、物語をより一層感動的に彩っています。

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