婆娑尼師今

婆娑尼師今（ばさ にしきん）

婆娑尼師今（80年 - 112年 在位）は、新羅の第5代の王であり、第3代儒理尼師今の第二子として生まれました。姓は朴氏。『三国史記』によれば、儒理尼師今の弟・奈老の子とも伝えられています。王妃は金氏の許婁葛文王の娘、史省夫人です。

即位の経緯

80年8月、先代の脱解尼師今が死去した際、儒理尼師今の長子である逸聖が後継者として有力視されました。しかし、群臣は弟の婆娑の聡明さを評価し、彼を王位に推挙しました。これにより、婆娑尼師今が新羅の王として即位することになりました。

治世

婆娑尼師今は、在位中に産業振興に力を入れるとともに、西方に位置する百済や南方の伽耶に対する国防を強化しました。94年と96年には伽耶からの侵入を受けましたが、これを撃退しています。また、101年には王都金城付近に月城を築き、居城を移しました。

音汁伐国との紛争調停と領土拡大

102年8月、音汁伐国と悉直谷国との間で境界争いが起こり、婆娑尼師今に調停が依頼されました。彼は金官国の首露王を呼び出し審議させましたが、その後の対応を巡り音汁伐国との不和を生じ、最終的に討伐を行いました。この討伐後、音汁伐国は降伏し、悉直谷国と押督国も新羅に服属することとなりました。しかし、104年には悉直国が反乱を起こしたため、再び討伐し、その遺民を南部へ移住させました。

百済との和睦と南方遠征

新羅の度重なる対外戦争での成功を受け、105年には百済の己婁王が新羅に和睦を申し入れてきました。108年には南方への大規模な遠征を行い、比只国、多伐国、草八国を併合し、領土を拡大しました。

死去

婆娑尼師今は112年10月、在位33年にして死去しました。彼の遺体は、始祖赫居世の陵である虵陵の域内に葬られました。

解釈

境界争いの仲裁に関する説話は、4世紀後半頃の新羅の実情を反映していると考えられています。当時の新羅は、辰韓諸国の中で有力な存在でしたが、支配下の小国間の紛争を直接解決するほどの力はなかったと見られています。また、新羅王の権力が領域内で十分に確立されていなかったことを示唆しています。

波沙寐錦との関連

『日本書紀』に登場する新羅王波沙寐錦は、婆娑尼師今と同一人物であるという指摘があります。また、広開土王碑や中原高句麗碑に登場する「寐錦」は、新羅の君主号であると考えられています。

蔚珍鳳坪碑には、法興王が「寐錦王」として記録されており、同時に「葛文王」の表記も見られることから、6世紀初頭の新羅では、寐錦王と葛文王という二つの権力が並存していた可能性も指摘されています。

参考文献

金富軾撰、井上秀雄訳注『三国史記』第1巻、平凡社〈東洋文庫372〉、1980年 ISBN 4-582-80372-5
井上秀雄『古代朝鮮』＜講談社学術文庫＞、講談社、2004年 ISBN 4-06-159678-0（原著『古代朝鮮』日本放送出版協会、1972年）

もう一度検索