婉という女 (映画)

『婉という女』：江戸時代を生き抜いた女医の物語

1971年、今井正監督によって世に送り出された映画『婉という女』。この作品は、1960年に第13回野間文芸賞を受賞した大原富枝の同名小説を原作としています。舞台は江戸時代中期、四国の土佐藩。主人公は、時代のしがらみに抗いながら医術の道を歩んだ女性医師、野中婉です。

映画では、岩下志麻が主人公の野中婉を熱演。彼女を取り巻く人々を、江原真二郎、緒形拳、河原崎長一郎、中村賀津雄といった実力派俳優たちが演じ、時代劇としての重厚感と人間ドラマの深みを同時に表現しています。

野中婉は、決して恵まれた環境には育ちませんでした。それでも彼女は、持ち前の知性と強い意志で、周囲の偏見や困難を乗り越え、多くの人々を救っていきます。その過程では、家族との葛藤、女性としての苦悩、そして時代が彼女に突きつける試練の数々が描かれ、観る者の心を揺さぶります。

今井正監督の繊細な演出は、野中婉の生き様を鮮やかに描き出しています。時代考証にも細心の注意が払われており、当時の土佐藩の生活様式や社会風俗をリアルに再現。単なる歴史劇にとどまらず、人間ドラマとしての深みも兼ね備えた作品に仕上がっています。

物語は、野中婉の幼少期から始まり、彼女が医師として成長していく過程、そして晩年までを丁寧に追いかけていきます。家族や友人、患者たちとの触れ合いを通して、婉の人間性が徐々に明らかになり、彼女の生き方に対する考え方が深く理解できるようになります。

映画『婉という女』は、単なる時代劇ではなく、一人の女性の生きざまを通して、当時の社会状況や女性の地位、医療のあり方など、様々なテーマを考えさせる作品です。また、家族愛や人間愛といった普遍的なテーマも描かれており、時代を超えて多くの人々に感動を与え続ける名作と言えるでしょう。

スタッフ

監督：今井正
脚本：鈴木尚之
原作：大原富枝（小説『婉という女』）
企画：本田延三郎、高島幸夫、鈴木尚之、今井正
製作：内山義重
撮影：中尾駿一郎
美術：川島泰三、平川透徹
音楽：間宮芳生
録音：安恵重遠
照明：平田光治
編集：丹治睦夫
助監督：長井博

キャスト

野中婉：岩下志麻
野中清七：江原真二郎
野中欽六：河原崎長一郎
野中希四郎：緒形拳
野中貞四郎：中村賀津雄
野中米：田代美恵子
野中寛：楠侑子
野中将：長山藍子
きさ：北林谷栄
かち：佐々木すみ江
のぶ：伊藤牧子
谷秦山：山本学
岡本弾七：北大路欣也
井口九郎兵衛：加藤嘉
井口長左衛門：織本順吉
みつ：岸田今日子
老番士：金井大
番士長：陶隆
赦免状の使者：岡野耕作
高知城の使者：南祐輔
供侍：蔵一彦
幼年時代の清七：針生真一
幼年時代の欽六：長張卓実
幼年時代の希四郎：桜田洋之助
幼年時代の貞四郎：三田隆一、吉野恒正
幼年時代の寛：桐ケ谷かおり
幼年時代のお婉：おかのあゆみ
幼年時代の将：鬼沢京子
幼年時代のみつの子：佐藤健太

受賞歴

1971年度 第45回キネマ旬報賞 日本映画ベスト・テン3位

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