媒剤

媒剤：絵画における色の担い手

絵画において、色を表現する上で欠かせないのが「媒剤」です。媒剤とは、絵具やインクの色素を基材に広げ、定着させるための成分のこと。いわば、色を運ぶ担い手であり、絵の具の粘度や乾燥方法、最終的な仕上がりなどに大きな影響を与えます。

媒剤は、展色材、ビークル、あるいは溶剤単独を指す場合もあります。英語では「medium」と表記されることもありますが、日本語の「媒材」と完全に一致する訳語とは言い切れません。文献によっては、媒材と媒剤を異なる概念として説明しているものもあります。

媒剤の種類と性質

媒剤は、その成分や乾燥方法によって様々な種類に分類されます。主な種類と特徴を以下に示します。

1. 溶剤型媒剤:

乾燥方法: 溶剤の蒸発によって乾燥します。
例:
油彩：ターペンタイン（揮発性の高い油）、リグニン
水彩：水
日本画：膠水（にかわ、動物の皮や骨を煮詰めた水溶液）
アクリル絵具：水（水性アクリル）、有機溶剤（溶剤型アクリル）
樹脂溶液：ダンマル樹脂、マスチック樹脂、コーパル樹脂などの天然樹脂を溶剤に溶かした液状の媒剤。

2. 化学変化を伴う乾燥:

乾燥方法: 溶剤の蒸発に加え、化学反応によって乾燥します。
例: テンペラ絵具に使われる卵黄の乳濁液。卵黄のタンパク質が空気中の酸素と反応し、固まります。

3. 酸化重合による乾燥:

乾燥方法: 油分が空気中の酸素と反応して重合し、乾燥します。
例: 油彩画に使われる乾性油（亜麻仁油、胡麻油など）、アルキド樹脂。

4. 熱可塑性媒剤:

乾燥方法: 熱で溶かして塗り、冷えると固まります。
例: エンカウスティック（蝋画）に用いられる蝋。

各絵画技法における媒剤の役割

それぞれの絵画技法において、媒剤は重要な役割を果たしています。

油彩: 乾性油やターペンタインは、絵具の粘度調整、乾燥速度の制御、筆運びの滑らかさなどに影響を与えます。
水彩: 水は、絵具の濃度や透明感を調整し、紙への浸透性を制御します。
日本画: 膠水は、絵具の接着性を高め、独特の光沢や透明感を生み出します。
アクリル絵具: 水性アクリルは水、溶剤型アクリルは有機溶剤を使用。乾燥速度が速く、作品を早く仕上げることができます。
テンペラ: 卵黄は、絵具に粘度を与え、独特のマットな質感を作ります。
エンカウスティック: 蝋は、絵具に光沢を与え、鮮やかな発色を実現します。

媒剤の選択は、使用する絵具や表現したい質感、乾燥時間など、様々な要素を考慮して行う必要があります。適切な媒剤を選択することで、より表現力豊かな作品を創作することが可能になります。

参考文献

『絵画技術入門―テンペラ絵具と油絵具による混合技法 (新技法シリーズ) 』 佐藤 一郎 著 美術出版社 1988.11 ISBN 4568321468 ISBN 978-4568321463
* 『絵具材料ハンドブック』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1997.4（新装普及版） ISBN 4805502878

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