嫌煙権訴訟

嫌煙権訴訟について

嫌煙権訴訟とは、1978年に結成された「嫌煙権確立を目指す法律家の会」の一部である弁護士12人によって、1980年4月7日に提起された民事訴訟です。この訴訟は、日本国内における非喫煙者の権利を主張する初めてのケースとして注目されました。

訴訟の背景

日本では、1970年代に入りタバコの有害性が広く知られるようになりましたが、政府や公的機関は適切な対策を行っていませんでした。国鉄車両の多くは喫煙可能であり、禁煙席は新幹線の「こだま」16号車のみと少なく、多数の乗客が受動喫煙の影響を受けていました。訴訟を起こした弁護士たちは、国、国鉄及び日本専売公社（後の日本たばこ産業）を被告として、この状況を改善するよう求めました。

訴訟の内容

原告は、国鉄車両に乗車することで煙害を被っているとし、国と専売公社に損害賠償を請求しました。この訴訟は、単なる個別の被害者の権利を主張するだけでなく、非喫煙者の権利を広く問うものでした。

国は、喫煙に関する行政政策を進めず、公共圏における非喫煙者の権利が侵害されていると原告側は主張しました。また、タバコの有害性を公にしない公社をその被告に加えたのも、重要な争点とされました。

東京地方裁判所の判決

1987年3月27日に東京地方裁判所が下した判決は、原告たちの請求を棄却しました。その理由として、国鉄以外にも交通手段が存在し、煙害を回避することはそれほど困難ではないとの判断が示されました。また、受動喫煙の害や不快感は認めつつも、それが一過性であり、社会全体の喫煙に対する寛容さを考慮すべきだとの理由からの判断でした。

最終的に、原告側は訴訟後に国鉄の禁煙車両が増えたことを背景に、実質的に勝訴したとみなし、この判決に控訴しないことを決定しました。

その後の影響

この訴訟は、日本社会における喫煙問題を大きくクローズアップし、多くの公共施設や交通機関での禁煙化や分煙化の動きを促進しました。公共の場での受動喫煙防止につながる重要な先駆けとなったことは、法的な側面だけでなく、社会意識の変化にも寄与したと評価されています。

参考文献

• - 笹田栄司『他人のタバコの煙は吸いたくない 嫌煙権訴訟』
• - 江橋崇『列車内における喫煙の禁止』

この訴訟は、日本における非喫煙者権利の重要性や公衆衛生の観点からも、今なお多くの議論のもととなっています。

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