孔克仁

孔克仁（こう こくじん）は、生没年不詳の元末から明初にかけて活躍した儒学者であり、官僚です。孔子の55世の孫と伝えられています。

生涯

孔克仁は、行省都事から郎中へと昇進しました。朱元璋に近侍し、宋濂とともに天下の情勢や前王朝の興亡の歴史について議論を重ねました。朱元璋が陳友諒を滅ぼした後、中原を制覇する決意を表明した際、孔克仁に意見を求めました。孔克仁は、兵糧を蓄え、兵士を訓練し、好機を待つよう進言しました。朱元璋の側近として最も長く仕え、その戦略や政策に大きな影響を与えました。洪武2年（1369年）4月には、博士として洪武帝の王子たちに経学を教えるよう命じられました。その後、知江州として地方に赴任し、後に中央に戻り参議を務めましたが、事件に連座し、その生涯を終えました。

人物・逸話

孔克仁は、朱元璋の信頼が厚く、その言動からは、優れた知性と洞察力が窺えます。朱元璋が自身を漢の高祖劉邦に例え、「秦の政治は暴虐であり、漢の高祖は無位無官から身を起こし、寛容さをもって群雄を従え、天下を統一した。現在の群雄は、法を遵守し、軍政を明確にすることを知らないため、大成しないだろう」と語った際、孔克仁は「主上の神武であれば、天下をすぐに平定できるでしょう」と答えています。

朱元璋が『漢書』を読んでいる際、孔克仁は宋濂と共に近侍しました。朱元璋が「漢の治道が純粋でないのはなぜか」と尋ねると、孔克仁は「王道と覇道が混ざっているためです」と答えました。さらに朱元璋が「その原因は誰にあるのか」と問うと、「高祖にあります」と率直に答えました。朱元璋は、漢の高祖の創業時期には秦の弾圧により人々が疲弊していたため、礼楽を語る余裕がなかったと指摘し、文帝の時代に礼を制定しようとしたが、時機を逸したと述べました。孔克仁は、帝王の道は時機を逃さないことが重要であると理解していました。

朱元璋が「漢の高祖が徒歩から天下を統一できたのはなぜか」と問うと、孔克仁は「人を知り、適材適所に任せたからです」と答えました。朱元璋は、項羽が仁義を欠き、自らの武勇を誇ったのに対し、高祖は人を知り、寛容な態度で人心を掌握したと述べ、自身も賢者を登用し、民を安心させ、天下の動向を注視していると語りました。また、力に頼るだけでは速やかに天下を統一することは難しいと指摘しました。

徐達らが淮東と淮西を平定した後、朱元璋は、紅巾の乱によって人々が苦しんでいる状況を説明しました。中原の諸将は、ボロト・テムルが宮廷を侵犯し、ココ・テムルが私怨に囚われ、李思斉らが凡庸であること、張士誠が二心を持っていること、明玉珍父子が蜀で帝位を僭称しているものの、深慮遠謀がないことを指摘し、彼らは大成しないと断言しました。朱元璋は、自らが天の時を計り、人事を判断し、時機を見定めると述べ、軍を西方に進め、東方と連携して攻撃すれば、必ず勝利すると確信を示しました。さらに、天下を平定した後も、民の生活には困難が残るため、思慮を尽くすと述べ、天下を治める上での覚悟を示しました。

これらの逸話から、孔克仁が単なる学者ではなく、政治や軍事に精通した人物であり、朱元璋の治世において重要な役割を果たしたことが伺えます。

参考文献

『明史』巻135 列伝第23

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