経学

経学：儒教経典の解釈と研究

経学とは、儒教の聖典である経書を研究し、解釈する学問分野です。古代中国においては、経書の権威を認め、聖王や聖人の発言の真意を解き明かすことを目的としていました。経書の注釈や総合的な論究が中心でしたが、経書の成立過程や学説の継承、さらには古典世界の解明まで範囲を広げる場合もありました。現代においても、経学的権威を認めずとも、従来の経学研究と類似した研究は経学と呼ばれることがあります。

経学の歴史は、大きく分けて漢代、宋代、清代の三つの時代区分で特徴付けられ、それぞれ異なる学術傾向を示しています。

1. 漢代の経学：訓詁学

漢代の経学は、経書の字句解説である訓詁を重視しました。聖王の古代の言葉の意味を正確に解明することに力を注ぎ、古義の解明を目指しました。この時代は、経書の解釈を巡る様々な学派が興り、今文学と古文学の対立が特徴的でした。今文学は、漢武帝の時代に設置された五経博士を中心として発展し、孔子の思想の解明に重点を置きました。一方、古文学は、秦の焚書によって失われた経書の古文テキストの発見を背景に興隆し、経書本文の理解と典章制度の解明に力を注ぎました。今文学と古文学は対立するだけでなく、互いに影響し合い、白虎観会議のような議論の場を通じて学説の統合も試みられました。代表的な学者としては、董仲舒（今文学）、賈逵、許慎、馬融（古文学）らが挙げられます。

2. 宋代の経学：宋学

宋代の経学は、宋学として知られています。宋学は、聖人の心を自分の心に体得し、自己修養を通して聖人となることを目指す内面的な学問でした。聖人の教えを理解することだけでなく、実践することを重視した点で、漢代の経学とは大きく異なっています。朱熹が体系づけた朱子学は宋学の集大成として知られ、『論語』、『孟子』、『大学』、『中庸』の四書を重視しました。これにより、経書は「四書五経」と呼ばれるようになりました。

3. 清代の経学：考証学

清代の経学は、考証学として発展しました。「実事求是」を標榜し、文献を精密に分析することで経書の本義を明らかにしようとする学問です。文字学、音韻学、訓詁学などの言語学的手法を用いて、経書のテキストの正確な理解と歴史的背景の解明に力を注ぎました。宋学の反動や文字獄の影響もあり、政治的な色彩を避けて実証的な研究が行われました。

経書の分類と内容

経学の対象となる経書は、易、書、詩、礼、楽、春秋の六経です。楽経は現存せず、五経（易、書、詩、礼、春秋）が主に研究されてきました。各経書には、今文と古文の異同が存在し、秦の焚書と経書の伝承方法の違いがその原因です。

易経（周易）： 占いの書として始まり、魏の王弼によって義理易という哲学的な解釈がなされました。
書経（尚書）： 古代聖王の政治的宣言を集めた書物です。今文と古文、そして偽古文の存在が複雑な問題を引き起こしました。
詩経（毛詩）： 恋愛や悲哀などを歌った詩集ですが、漢代では政治的解釈が重視されました。宋代以降は本来の意味の解明が重視されるようになりました。
礼経（三礼）： 『儀[[礼]]』、『周礼』、『礼記』の三書を指し、礼儀作法や社会制度を記述しています。特に『礼記』は、注釈書として発展し、経典としての地位を確立しました。
楽経： 楽譜、音楽理論書、または音楽そのものだったと考えられています。現存しません。
春秋経： 魯の国史を基に孔子によって編纂されたとされる歴史書です。『左氏伝』、『公羊伝』、『穀梁伝』の三伝を通じて研究されます。

日本における経学

日本においても、経典の解釈と研究が行われ、経業や明経と呼ばれました。中国の注釈書を参考に訓詁を行い、テキストの校合や訓点の施すことが重視されました。しかし、平安時代後期には家学化し、学問としての発展は停滞しました。

経学は、儒教思想の理解と発展に大きく貢献した学問です。その歴史と学術的特徴を理解することは、中国古典や儒教思想を深く理解するために不可欠です。

もう一度検索