宋濂

宋濂（そう れん）

宋濂（そう れん、1310年 - 1381年）は、中国の元末から明初にかけての激動期に生きた政治家、儒学者、そして文学者です。字（あざな）は景濂（けいれん）、号は潜渓（せんけい）、無相居（むそうきょ）など多数を持ちます。現在の浙江省金華市金東区に位置する婺州浦江県（ぶしゅうほこうけん）の出身です。

生涯

貧しい家庭に生まれた宋濂でしたが、幼い頃から学問に励み、儒学の深い知識を身につけました。呉萊（ごらい）、柳貫（りゅうかん）、黄溍（こうしん）といった当時の著名な古文の大家に師事し、その才能を開花させました。1335年には、私塾の教師として教鞭を執るようになりました。

元朝の順帝の時代には、翰林院編修（かんりんいんへんしゅう）という役職に任じられましたが、両親への孝養を尽くしたいという理由でこれを固辞し、隠居生活を送りながら著述に専念しました。

1360年、宋濂の名声は「浙東四先生（せっとうしせんせい）」の一人として高まっていました。この頃、有力な反乱勢力として台頭していた朱元璋（後の洪武帝）から招聘を受け、その麾下に入ります。朱元璋が明を建国すると、宋濂は江南儒学提挙（こうなんじゅがくていきょ）という要職に就き、太子の教育係として儒教の経典を講じました。また、明王朝の礼楽制度の多くを制定する重要な役割を果たしました。

1369年には、『元史』の編纂という国家的な事業の責任者に任命され、その完成に尽力しました。官職は翰林学士承旨（かんりんがくししょうじ）、知制誥（ちせいこう）にまで昇進しました。1377年には、高齢を理由に官を辞して故郷に戻ります。しかし、1380年に孫の宋慎（そうしん）が胡惟庸（こいよう）の獄に巻き込まれたことで、一家は四川省茂県（しせんしょうもけん）への流罪となります。流刑地へ向かう途中、夔州（きしゅう、現在の重慶市奉節県）で病死しました。その功績から、文憲（ぶんけん）という諡（おくりな）が贈られました。

文学と儒学

宋濂は文学史において、劉基（りゅうき）、高啓（こうけい）と並び、明初の詩文三大家の一人と称えられています。また、儒学者としても、自ら儒教の正統な後継者であると自負していました。唐や宋の時代の文章を手本とし、「宗経（そうけい）」「帰古（きこ）」をモットーに、多くの著作を残しました。

彼の著作は伝記や散文が中心であり、その文体は質朴で簡潔ながらも、おおらかで優雅な一面も持ち合わせています。朱元璋は宋濂を「開国文臣之首（かいこくぶんしんのしゅ）」（開国に功績のあった文臣の筆頭）と評し、劉基は「当今文章第一（とうこんぶんしょうだいいち）」（当代随一の文章家）と賞賛しました。当時の学者たちは、彼を「太史公（たいしこう）」（『史記』の著者である司馬遷になぞらえた尊称）と呼んでいました。

主な著作には、『宋学士全集（そうがくしぜんしゅう）』、『浦陽人物記（ほようじんぶつき）』、『洪武聖政記（こうぶせいせいき）』などがあります。また、弟子には、明代初期の著名な学者である方孝孺（ほうこうじゅ）がいます。

宋濂は、激動の時代を生き抜きながら、政治、儒学、文学の各分野で偉大な足跡を残した人物です。彼の思想と文才は、後世に大きな影響を与え続けています。

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