孝子

孝子（こうし）とは

孝子とは、父母によく仕える子供のことを指します。この概念は、儒教における「孝」の思想を基盤としており、親への敬愛と奉仕を重んじる道徳観を表しています。中国においては、儒教が最も重要な徳目の一つとされ、孝行は古くから社会的に推奨されてきました。その影響は日本にも及び、律令時代には孝子を表彰する制度が設けられました。

律令制度における孝子

日本の律令制度では、孝子は顕彰の対象とされました。具体的には、賦役令において、孝子、順孫（親に従順な孫）、義夫（貞節な夫）、節婦（貞節な妻）として聞こえのある者を太政官に報告し、天皇への奏聞を経て、その者の家の門前や所属する里の入口に孝状を掲示しました。これにより、その人物と同一戸籍の全ての公民に対する課役が免除されました。これは、孝行を実践する者を社会的に称え、その模範を示すことで、社会全体の道徳意識を高めることを目的としたものです。

また、戸令には、国守が巡行の際に、学問に励む者、道徳を重んじる者、孝悌心のある者、忠実で誠実な者、清廉潔白な者、並外れた行いをする者を見出し、中央に推挙することが義務付けられていました。これらの規定に基づき、実際に措置が講じられた記録が『続日本紀』にも見られます。しかし、日本には中国のような宗族を中心とした家族制度がなかったため、孝子の概念がどこまで正確に理解されていたかについては、不明な側面も残されています。

江戸時代から近代における孝子

江戸時代には、領主によって孝子に対する褒賞が行われていました。これは、地域社会における孝行を奨励し、道徳観を維持する役割を担っていたと考えられます。

明治時代に入っても、孝子に対する褒賞の制度は引き継がれました。明治8年（1875年）には、内務省が「孝子貞婦義僕奇特ノ者賞與常例」という布達を出し、孝子などの善行者を賞する慣例が定められました。また、昭和5年（1930年）には、文部大臣が「孝子表彰」を行い、その人々の住所と氏名を官報に掲載しました。これらの事例から、明治から昭和にかけても、政府が孝行を推奨し、表彰する制度が存続していたことがわかります。

まとめ

孝子は、親への孝養を実践する者として、古くから社会的に尊重され、表彰の対象とされてきました。その背景には、儒教の孝の思想があり、家族制度や社会規範の維持にも影響を与えてきました。時代によって表彰の方法や制度は変化しましたが、孝行を重んじるという価値観は、現代にまで受け継がれています。

もう一度検索