賦役令

賦役令（ぶやくりょう）とは

賦役令は、養老令の第10番目に位置する篇目で、全39条から構成されています。この令は、租税である「賦」と労役である「役」に関する規定を包括的に定めており、律令制における国家財政と人民の義務を理解する上で重要な法令です。

賦と役の内容

「賦」は、調や庸といった物品による租税を指します。具体的には、特産物や布などが納められました。一方、「役」は、歳役、雑徭、雇役、仕丁など、肉体労働による義務を意味します。これらの労働は、公共事業や官衙での業務などに従事しました。

賦役令の規定

賦役令には、以下のような様々な規定が含まれています。

調・庸の税目と税額: どのような物品をどれだけ納めるかが詳細に規定されています。また、身分などによる免除の規定も設けられていました。
経費配分: 徴収された税がどのように使われるかの配分に関する規定があります。
計帳・義倉・土毛: これらの制度に関する規定も含まれており、租税徴収と管理体制が定められていました。
封戸: 封戸における賦課基準や徴収方法が規定されています。
課役の免除: 一定の条件を満たす者に対する課役の免除が定められています。
丁匠の雇役: 職人である丁匠を雇う際の規定があります。
諸国の貢献の品: 各国が朝廷に納めるべき特産品に関する規定があります。
雑徭: 雑徭に関する規定が定められています。
海外からの帰還者: 唐など海外から帰還した者に対する課役免除期間に関する規定があります。
孝子順孫の表彰: 親孝行な者や子孫を大切にする者を褒賞し、課役を免除する規定があります。

唐令との比較

賦役令は、唐の制度を参考にしていますが、日本独自の要素も多く含まれています。唐令では、課役は租税一般を指しましたが、日本では田租に関する規定を田令に移し、独自の編成を行いました。また、調の品目や代替の場合の量など、具体的な記述がなされているのが特徴です。これは、律令制以前の日本の伝統に基づいたものであり、田令・戸令と一体となって、人民を公民として登録し、班田収授によって生活基盤を安定化させる一方で、良民と賤民の身分的区別を明確にし、賤民に支配階級への労働力提供を義務づけるという側面も持ち合わせていました。

予算編成と財政制度

唐令には、来年度の予算案を皇帝に報告する予算編成の制度がありましたが、日本では財政・納税組織の整備が不十分であったためか、この規定は削除されました。また、唐では必要に応じて州間で財物を移動させる外配が認められていましたが、日本では徴収された租税は全て中央に納めることになっていました。

身分に基づく免除

身分に基づく課役の免除についても、唐令との違いが見られます。日本では、外戚に対する免除や皇族の範疇から外れた皇帝の子孫に対する労役の免除は外され、官人の子弟に対する免除も五位以上に限定されました。外戚の存在が考慮されなかった背景には、光明皇后以前の天皇の后は皇族から出すことが基本とされてきたことがあります。また、官人の子弟に対する免除は、旧来からの支配者層を温存・再生産するための政策に基づいていました。

まとめ

賦役令は、律令制における租税と労役に関する基本法であり、国家財政を支える重要な役割を果たしていました。唐令との比較を通じて、日本の律令制が独自の社会構造や伝統に基づいて形成されたことが理解できます。また、身分制度や税制、財政運営など、多岐にわたる側面から当時の社会状況を考察する上で、賦役令は欠かせない資料と言えるでしょう。

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