宇部蒲鉾

宇部蒲鉾株式会社の歩み

宇部蒲鉾株式会社は、かつて山口県宇部市に拠点を置いていた水産練製品の製造販売業者です。「宇部かま」というブランド名で親しまれ、高品質な蒲鉾やちくわなどを手掛けていましたが、2024年3月1日以降は、株式会社北九州ニッスイの宇部工場として操業を続けています。

設立と歴史

その起源は戦時中の1941年（昭和16年）12月に遡ります。宇部市内の蒲鉾業者10軒が、企業整備令に基づき統合され、「宇部かまぼこ合同製造販売組合」として発足しました。初代組合長には柳屋元助氏が就任しています。

数年を経て組織形態が変更され、1944年（昭和19年）2月17日には株式会社化され、「宇部水産練製品工業株式会社」に改称。さらに1949年（昭和24年）4月には、「宇部蒲鉾株式会社」と社名を改め、戦後の復興期から高度成長期にかけて地域経済の一翼を担いました。

沿革においては、革新的な取り組みも見られます。1956年（昭和31年）5月には、日本で初めてケーシング詰めの蒲鉾の製造と販売を開始し、その技術力は注目されました。また、1958年（昭和33年）4月には東本町工場を完成させ、生産体制を強化。1984年（昭和59年）にはシンボルマークとロゴタイプを刷新するCI（コーポレート・アイデンティティ）を導入し、ブランドイメージの確立を図りました。本社・工場は、1991年（平成3年）6月に宇部市大字川上へ新築移転しています。

事業内容と製品へのこだわり

宇部蒲鉾は、多様な魚肉練り製品を製造・販売していました。製品には、長崎県の五島灘や天草灘から毎日水揚げされる新鮮な高級魚「エソ」を主な原料として使用。また、地元宇部市の霜降山から湧き出る天然清水を使うなど、厳選された素材へのこだわりを持っていました。これらの高品質な製品は、「宇部かま」ブランドとして広く認知されました。

主な商品ラインナップには、長年にわたり愛されてきた製品が含まれます。例えば、「新川（しんせん）」は1963年から、「嶺雪（みねゆき）」は1950年から、「銀雪（ぎんせつ）」は1956年から販売が開始された歴史ある製品です。他にも「蒲さし」（1976年〜）や「極一ちくわ（ごくいち）」など、地域に根差した名産品を生み出しました。

製品の販売は、本社敷地内や新山口駅、山口井筒屋宇部店、イズミゆめタウン山口店内の直売所といった4つの直営店に加え、全国各地の百貨店やスーパーマーケットなど幅広い販路で行われていました。

工場見学と文化施設

本社工場には、蒲鉾の製造工程を見学できる専用通路が設置されており、主に宇部市内の小学生が社会科見学に訪れるなど、地域の産業教育に貢献していました。また、産業観光ツアーのコースにも組み込まれるなど、工場は地域に開かれた存在でもありました。

敷地内には「かまぼこ歴史館」も併設されていました。ここでは、人形や模型を用いて蒲鉾の歴史や昔ながらの製造方法を紹介しており、食文化の理解を深める施設として運営されていました。隣接する施設として、日本庭園を備えた会合施設「清水庵」もありました。かまぼこ歴史館は、通常10:00から14:00まで開館しており、毎週水曜日、日曜日、祝日が休館日でした。

事業の終焉と新たな始まり

しかしながら、水産練り製品市場の縮小傾向や、新型コロナウイルスのパンデミックによる原材料価格の高騰などの影響を受け、同社は財務的に厳しい状況に陥りました。債務超過の状態となったことを受け、2023年（令和5年）10月31日、株式会社北九州ニッスイへの事業譲渡について合意に至りました。この合意は同年11月29日に開催された臨時株主総会で承認可決されました。

宇部蒲鉾株式会社としての生産および販売は2024年2月末をもって終了し、3月1日からは株式会社北九州ニッスイの宇部工場として、新たな体制のもとで操業が引き継がれることとなりました。これにより、「宇部かま」の製造技術や商標は北九州ニッスイに継承され、製品は今後も市場に供給されることになります。

本社前の道路を挟んで隣接する真締川ダムや、設立に関わった柳屋元助氏が創業したヤナギヤは、宇部蒲鉾と関連の深い事項として挙げられます。

数々の製品を生み出し、地域の食文化を支えてきた宇部蒲鉾株式会社は、その法人としての歴史に幕を下ろしましたが、その技術とブランドは新たな形で引き継がれています。

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