安久榮太郎

安久榮太郎：潜水艦輸送を支えた不屈の士

安久榮太郎（あんきゅう えいたろう）は、1901年6月5日福井県に生まれ、1945年4月13日に戦没した日本の海軍軍人です。最終階級は海軍少将。太平洋戦争において、伊38潜水艦長として23回もの輸送作戦を成功させ、その功績は特筆に値します。

生涯

海軍兵学校50期を95番の成績で卒業。同期には、松村寛治、堀内豊秋らがいます。海軍入隊後、潜水艦乗りとしての道を歩み始めます。呂59への乗組を皮切りに、水雷学校高等科、潜水学校乙種を修了し、潜水艦専攻士官としての専門知識と技能を磨きました。

潜水艦乗りとして

潜水学校乙種での学びは、潜水艦水雷長としての基礎を築きました。魚雷の管理・発射、潜航作業の指揮、そして潜水艦長を補佐する役割を担い、伊22、伊56、伊57で水雷長を歴任。その後、潜水学校教官として後進の育成にも尽力しました。最初の艦長職は伊22。短い期間ののち潜水学校甲種に進み、潜水艦長としての知識・戦術を習得しました。

1941年8月には、伊1潜水艦長に就任。伊1は大正末期に竣工した巡潜1型潜水艦であり、第一次世界大戦におけるドイツ潜水艦の設計思想を取り入れた大型艦でした。水上10ノットで24400浬の航続距離、魚雷24本の攻撃力を有し、安久はその指揮を執りました。

真珠湾攻撃とミッドウェー海戦

真珠湾攻撃時には、第六艦隊第二潜水戦隊に所属し、カウアイ島からオアフ島、オアフ島からモロカイ島間に展開。敵艦船の攻撃を試みました。12月31日にはハワイ島ヒロに対する砲撃を実施。その後、空母部隊の索敵、ジョンストン島東方での索敵に参加。1942年2月1日に横須賀へ帰港しました。

ミッドウェー海戦時には横須賀にいましたが、敗戦後、第二潜水戦隊は北方部隊に編入され、アリューシャン方面での作戦に参加。その後、第七潜水隊はトラックへ進出。ガダルカナル島の戦いにおいては、佐世保鎮守府第五特別陸戦隊の救出作戦を成功させました。

伊38潜水艦長として

1942年10月31日、呉鎮守府附を経て、伊38艤装員長、そして艦長に就任。伊38は巡潜乙型潜水艦であり、高速力と長大な航続距離、多数の魚雷を搭載可能でした。呉潜水基地隊、第十一潜水隊での訓練後、第一潜水戦隊第十五潜水隊に編入され、輸送作戦に従事します。

日本海軍は、大砲や砲弾を潜水艦で輸送するために運砲筒を開発。安久の伊1は、呉からラバウルに進出した際、この運砲筒とその教官を輸送しました。現地では海軍陸戦隊員や陸軍船舶兵への訓練も実施されました。

潜水艦輸送作戦

ガダルカナル撤退後、ニューギニアの戦いが激化する中、潜水艦による輸送はますます重要となりました。米軍のレーダー技術が進歩する中、潜水艦輸送は危険な任務であり、「丸通」と自嘲的に呼ばれることもありました。しかし、安久率いる伊38は、南東方面潜水艦部隊に編入され、卓越した輸送実績を上げました。食糧、弾薬など753tを輸送。輸送回数は23回に及び、当時の潜水艦輸送全体の約一割を占めました。

戦死

1944年1月7日、伊38は呉に帰港し修理を受け、安久は潜水学校教官兼研究部部員となります。同年5月1日には大佐に進級。翌年3月、第三三潜水隊司令に補され、呂64潜水艦長を兼務。4月12日、広島湾での潜航訓練中に触雷し、呂64は沈没。安久以下77名全員が殉職しました。

人物像

安久は、作戦行動中とそれ以外の時とで全く異なる人物でした。普段は酒豪であり、上陸すると艦へ戻ることを忘れて飲み続けることもありました。しかし、作戦指揮においては勇敢であり、命令に不満を述べることはありませんでした。輸送作戦での功績は連合艦隊司令長官名で全軍布告され、昭和天皇に拝謁する栄誉を得ました。

安久榮太郎は、困難な状況下で潜水艦輸送を成功させ、多くの将兵を救った不屈の軍人でした。彼の功績は、日本海軍史に深く刻まれています。

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