安克昌

安克昌（あん かつまさ）

安克昌（1960年12月6日 - 2000年12月2日）は、日本で活動した韓国籍の精神科医です。大阪府大阪市に在日韓国人3世として生まれ、神戸大学医学部を卒業後、精神科医としての道を歩み始めました。神戸大学で博士号を取得し、中井久夫や山口直彦といった著名な精神科医のもとで研鑽を積みました。

生涯と業績

安克昌は、特にPTSD（心的外傷後ストレス障害）や解離性同一性障害（多重人格）の研究に力を注ぎました。しかし、彼の名前が広く知られるようになったのは、1995年の阪神・淡路大震災での活動がきっかけでした。

震災発生直後から、安克昌は避難所などで積極的にカウンセリングや診療などの救護活動を行い、被災者の心のケアに尽力しました。その一方で、産経新聞夕刊に連載された「被災地のカルテ」は、大規模災害下での人々の精神状態を詳細に記録し、「心のケア」や「心的外傷後ストレス障害（PTSD）」といった概念を広く社会に認知させる上で、非常に重要な役割を果たしました。連載をまとめた著書『心の傷を癒すということ』（作品社）は、1996年にサントリー学芸賞を受賞し、彼の活動は広く社会に認められました。

この著書は、単なる精神医療の記録ではなく、極限状態における人間の心の動きを捉え、私たちに「心のケア」の重要性を教えてくれるものでした。その後の災害支援における精神科医療のあり方に大きな影響を与えただけでなく、多くの人々の心の支えとなりました。

2000年、安克昌は肝細胞癌のため39歳という若さで亡くなりました。病状が末期になってから発見されたため、最期まで家族との時間を大切にし、第3子の誕生を見届けた2日後に息を引き取りました。彼の死後も、その業績は語り継がれ、2020年にはNHK大阪放送局制作のテレビドラマ『心の傷を癒すということ』が放送され、彼の生涯と活動が再び注目を集めました。

著書と関連書籍

安克昌の著書は、精神医療の専門家だけでなく、一般の人々にも広く読まれています。

• - 『心の傷を癒すということ 神戸……365日』（作品社、1996年）
• - 『心の傷を癒すということ』（角川ソフィア文庫、2001年）
• - 『〈増補改訂版〉心の傷を癒すということ：大災害精神医療の臨床報告』（作品社、2011年）
• - 『〈新増補版〉心の傷を癒すということ：大災害と心のケア』（作品社、2019年）

また、以下の書籍では、安克昌の生涯や精神医療に対する考え方について、深く掘り下げて考察されています。

• - 河村直哉『精神科医・安克昌さんが遺したもの：大震災、心の傷、家族との最後の日々』（作品社、2019年）
• - 中井久夫編『1995年1月・神戸：「阪神大震災」下の精神科医たち』（みすず書房、1995年）

翻訳

安克昌は翻訳者としても活躍しました。

• - クラウス・コンラート著『分裂病のはじまり：妄想のゲシュタルト分析の試み』（岩崎学術出版社、1994年）
• - フランク・Ｗ. パトナム著『多重人格性障害：その診断と治療』（岩崎学術出版社、2000年）
• - バリー・M. コーエン、エスター・ギラー、リン・Ｗ編著『多重人格者の心の内側の世界：154人の当事者の手記』（作品社、2003年）

関連人物

安克昌は、多くの精神科医との交流がありました。

• - 中井久夫
• - 山口直彦
• - 岩井圭司

関連事項

• - 精神医学
• - 精神病理学
• - 心的外傷後ストレス障害
• - 解離性同一性障害

安克昌の生涯と業績は、精神医療の発展だけでなく、災害時の心のケアの重要性を私たちに教えてくれます。彼の著書は、今もなお多くの人々に読み継がれ、その影響は計り知れません。

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