安全保障学

安全保障学：国家と個人の安全を守るための学問

安全保障学とは、国家や個人の価値あるものを脅威から守り、安全を確保するための政策や戦略を研究する学問分野です。国家安全保障の問題を中心に据えつつ、国際関係論、軍事学、政策科学といった多様な領域と密接に関わっています。

安全保障学の成立と発展

現代の安全保障学は、第二次世界大戦後の1940年代にアメリカで誕生しました。核兵器の登場という新たな脅威に対応するため、軍事力に偏っていた従来の国家安全保障政策研究をより包括的に捉え直す必要性が生じたことが大きな要因です。ベイジル・リデル＝ハートらによる戦略研究の深化も、安全保障学の成立を後押ししました。

初期の安全保障学は、核戦略を中心とした研究から発展しました。ランド研究所のようなシンクタンクが、抑止戦略やゲーム理論といった重要な概念の構築に貢献しました。バーナード・ブローディによる抑止理論や、トマス・シェリングらによるゲーム理論は、安全保障政策の基礎理論として現在も重要な役割を果たしています。

冷戦期には、ソビエト連邦への対応が安全保障学研究の主要なテーマでした。国際安全保障政策、核戦略、諜報活動、限定戦争、軍備管理、強制外交、戦略文化、防衛経済、政軍関係、非正規戦争など、多様な研究分野が形成されました。

冷戦後の安全保障学

冷戦終結後、安全保障学は新たな局面を迎えました。従来の概念や枠組みの見直しが行われ、テロリズム、内戦、革命、反乱といった新たな脅威への対応が重要な課題となりました。2001年のアメリカ同時多発テロ事件はその象徴的な出来事です。

また、安全保障の概念そのものの再定義も進んでいます。経済安全保障（食糧・エネルギー安全保障）、バイオセキュリティ（感染症対策）、環境安全保障（地球温暖化対策）、人間の安全保障（人々の生活水準向上）など、非軍事的要素を重視する研究が盛んに行われています。

一方で、軍事力に関する研究も継続して重要性を保っています。情報革命やグローバリゼーション、軍事技術の革新（軍事革命）を踏まえた、新たな軍事的安全保障の在り方が模索されています。ネットワーク中心戦やエアパワー理論などが、その代表例です。

主要な参考文献

安全保障学の研究を理解するために、以下の参考文献が役立ちます。

Buzan, B., Wver, O., Wilde, J. D. 1997. Security: A New Framework for Analysis. Boulder: Lynne Rienner Publication.
Collins, A., ed. 2010. Contemporary Security Studies. New York; London: Oxford University Press.
Dupuy, T. N., ed. 1992. International Military And Defense Encyclopedia. 6 Vols. New York: Brassey.
Gray, C. 1982. Strategic Studies and Public Policy: The American Experience. Lexington, K.Y.: University Press of Kentucky.
Schelling, T. C. 1960. The Strategy of Conflict. Cambridge, M.A.: Harvard University Press.（河野勝監訳『紛争の戦略：ゲーム理論のエッセンス』勁草書房、2008年）
防衛大学校・安全保障学研究会編『新訂第4版 安全保障学入門』亜紀書房、2009年

関連分野

安全保障学は、国際関係論、軍事学、防衛学、危機管理など、様々な分野と密接に関連しています。これらの分野を理解することで、安全保障学の理解が深まります。また、憲法学会なども関連する知見を提供します。コペンハーゲン学派などの安全保障研究の新たなアプローチも注目されています。

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