安北府の戦い

安北府の戦い：高麗とモンゴルの激突と戦略転換

1231年、朝鮮半島北部で繰り広げられた安北府の戦いは、モンゴル帝国と高麗のあいだに深い溝を刻む、重要な軍事衝突でした。この戦いは、高麗の戦略を根本から変え、その後の朝鮮半島における両国の関係に大きな影響を与えたのです。

戦いの背景：高麗とモンゴルの緊張関係

1219年の江東城の戦い以降、高麗はモンゴル帝国と名目上の友好関係を結び、貢物を納めていました。しかし、1225年に発生したモンゴル使臣殺害事件をきっかけに、両国の関係は悪化。モンゴルの新帝オゴデイは、これを口実に大規模な軍事侵攻を開始します。

サリクタイ・コルチ率いるモンゴル軍は1231年8月下旬、鴨緑江を渡って高麗に侵攻を開始。義州、龍州、鉄州などを次々と制圧し、急速に南下しました。高麗側は、38領からなる3万8000人の保勝軍・精勇軍から編成された三軍を主力として、蔡松年を大将軍に任命し、抵抗を試みました。さらに、各地の義勇兵や草賊からも兵士を募り、増援を得ました。

黄州での小競り合いと安北府での決戦

9月下旬、高麗軍は黄州近郊でモンゴル軍の先鋒隊を撃破。一時的な勝利を収めます。しかし、これはモンゴル軍全体の戦力の一部を撃破したに過ぎず、本隊の南下を遅らせるには至りませんでした。

10月21日、安北府の城下で、サリクタイ率いるモンゴル軍本隊と高麗軍三軍による決戦が勃発します。当初、高麗軍は城内に籠城しようとしていましたが、後軍の主張により野戦に出ることを決定。しかし、モンゴル軍の巧みな戦術と圧倒的な軍事力の前になすすべもなく、高麗軍は壊滅的な敗北を喫しました。

モンゴル軍は、騎兵部隊による側面からの奇襲攻撃を行い、高麗軍の右翼を崩壊させました。その後、矢の雨の中、高麗軍の中軍も崩壊。李彦文、鄭雄、蔡識など多くの将軍が戦死しました。

戦いの影響：堅壁清野への転換

安北府の戦いの敗北は、高麗に大きな衝撃を与えました。モンゴル軍は、安北府を占領した後も南下を続け、12月1日には高麗の首都開京を包囲。高麗は、多大な貢物を献上することで降伏を余儀なくされました。

しかし、この屈辱的な敗北は、高麗の抵抗を完全に屈服させることはありませんでした。モンゴル軍が撤退した翌1232年1月、高麗の実力者崔瑀は、徹底抗戦を決意。首都を開京から江華島に移し、国民に海島や山城への避難を命じました。さらに、モンゴルに派遣されていたダルガチ（行政官）を殺害するなど、抵抗を継続しました。

安北府の戦いは、高麗の戦略を決定的に変えたのです。正面からの戦闘による抵抗の限界を悟った高麗は、以降、堅壁清野、すなわち、要害に籠城し、農村を焼き払い、補給路を断つという戦略に転換しました。この戦略は、モンゴル軍の侵攻を長期にわたって阻止する効果を発揮することになります。

安北府の戦いは、単なる軍事衝突以上の意味を持っていました。これは、高麗がモンゴル帝国の圧倒的な軍事力と対峙し、その後に続く長期にわたる抵抗の礎を築いた重要な転換点だったのです。 この戦いは、朝鮮半島の歴史において、新たな時代の幕開けを告げたと言えるでしょう。

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