流鏑馬

流鏑馬（やぶさめ）とは

流鏑馬は、日本の伝統的な騎射術であり、武家社会で発展した騎馬武術の一種です。疾走する馬に乗りながら、鏑矢（かぶらや）を用いて的を射る技術、儀式、そして競技としての側面を持っています。現代では、武田流や小笠原流といった流派によって伝統が守られ、神社の神事や地域のお祭り、さらにはスポーツ競技としても親しまれています。

名称の変遷

流鏑馬は、古代には「馬的射（むまゆみいさせ）」や「騎射（むまゆみ）」、「矢馳せ馬（やはせむま）」などと呼ばれていました。これらの言葉が変化し、「やぶさめ」という名称になり、漢字で「流鏑馬」や「鏑流馬」と表記されるようになったと考えられています。

歴史

起源と発展

流鏑馬の起源は、6世紀中頃に欽明天皇が戦乱を鎮めるために行った神事であるとされています。その後、天武天皇の時代には宮中行事として行われ、平安時代には武士の鍛錬として定着しました。鎌倉時代には、源頼朝が流鏑馬を復興させ、武士の嗜みとして盛んに行われるようになりました。しかし、室町時代以降、戦術の変化とともに一時衰退します。

江戸時代の復興と現代

江戸時代に入ると、徳川吉宗の命により小笠原流が流鏑馬を再興し、将軍家の厄除けや誕生祈願などの行事として行われるようになりました。明治維新後、一時衰退しましたが、現在では伝統行事として各地で継承され、観光イベントとしても人気を集めています。また、近年では「スポーツ流鏑馬」として競技化も進んでいます。

流鏑馬の形式

馬場

流鏑馬の馬場は、通常2町（約218メートル）の直線コースで、左側に3つの的が設置されます。射手は、このコースを疾走する馬の上から、連続して矢を射ます。的までの距離や高さは、流派や規定によって異なります。

騎射三物

流鏑馬は、笠懸（かさがけ）や犬追物（いぬおうもの）と合わせて「騎射三物」と呼ばれます。笠懸は、的と射手の距離が10〜15間（約18〜27メートル）と遠く、犬追物は、竹垣で囲まれた馬場に放たれた犬を射るもので、それぞれ異なる特徴を持っています。

射手の服装

射手は、水干（すいかん）や鎧直垂（よろいひたたれ）といった伝統的な装束を身につけ、腰には行縢（むかばき）、足には物射沓（ものいぐつ）を着用します。また、左手には射小手（いごて）をつけ、頭には綾藺笠（あやいがさ）を戴きます。

流鏑馬の作法

流鏑馬の儀式は、神拝から始まり、射手は馬場を一通り見て回った後、馬場末に集まり、日記役の宣によって開始されます。一番射手が祝詞を奏上し、扇を投げ上げて最初の的を射る「揚扇」を行い、その後、二の的、三の的を射ます。最後の射手は、鞭を高く掲げる「揚鞭」を行います。射法では、鞍から体を浮かせる「鞍をすかす」動作や、矢を射る際の独特な掛け声が特徴的です。

全国の開催地

流鏑馬は、日本各地の神社や寺院、お祭りなどで開催されています。以下に、主な開催地とその行事名を紹介します。

東北地方

青森県：青森市、十和田市、八戸市、弘前市
岩手県：遠野市、盛岡市
宮城県：仙台市
山形県：寒河江市
福島県：石川郡古殿町、いわき市

関東地方

茨城県：笠間市、土浦市
栃木県：宇都宮市、佐野市、日光市
埼玉県：入間郡毛呂山町
千葉県：香取郡東庄町、鴨川市、銚子市
東京都：大田区、渋谷区、新宿区、杉並区、台東区
神奈川県：足柄上郡山北町、小田原市、川崎市、鎌倉市、逗子市、高座郡寒川町、三浦市、横浜市

中部地方

富山県：射水市
長野県：諏訪郡下諏訪町、大町市
山梨県：南都留郡富士河口湖町、富士吉田市
岐阜県：土岐市、可児市
静岡県：富士宮市、三島市
愛知県：豊川市

近畿地方

三重県：伊賀市、桑名市
滋賀県：大津市、高島市
京都府：京都市北区、京都市左京区
大阪府：大阪市北区、大阪市住吉区
兵庫県：神戸市、丹波篠山市
奈良県：天理市、奈良市
和歌山県：田辺市、日高郡みなべ町

中国地方

岡山県：岡山市北区、加賀郡吉備中央町
島根県：鹿足郡津和野町、益田市
広島県：廿日市市、山県郡安芸太田町
山口県：下関市

四国地方

香川県：仲多度郡琴平町
徳島県：海部郡海陽町
愛媛県：今治市
高知県：安芸郡東洋町

九州地方

福岡県：大川市、田川郡香春町、那珂川市、福岡市、宗像市
大分県：国東市、宇佐市
佐賀県：鹿島市、武雄市
長崎県：長崎市、松浦市
宮崎県：宮崎市
熊本県：阿蘇市、玉名市、熊本市中央区
* 鹿児島県：肝属郡肝付町、曽於市、日置市

これらの他にも、各地の乗馬倶楽部などが主催する「競技流鏑馬」が開催されています。

まとめ

流鏑馬は、日本の歴史と文化を色濃く反映した伝統的な騎射術です。その技術や様式は、時代とともに変化し、現在では神事、祭礼、スポーツ競技として、多様な形で受け継がれています。各地で繰り広げられる流鏑馬の勇壮な姿は、多くの人々を魅了し続けています。

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