完顔元宜

完顔元宜（かんがん げんき）

完顔元宜（生没年不詳）は、金の時代の武将であり、遼の宗室出身という異色の経歴を持つ人物です。本姓は耶律氏。父は完顔慎思、子は耶律習涅阿補。

生涯

出自と初期の経歴

完顔元宜の父である慎思は、遼の宗族出身の武将でした。完顔宗望（金の太祖阿骨打の子）に降伏し、その功績によって国姓である完顔姓を賜り、最終的には儀同三司の位にまで昇りつめます。

元宜自身は、皇統元年（1141年）に護衛として官職に就き、その後順調に昇進を重ね、海陵王が帝位を簒奪した際には兵部尚書という要職にありました。天徳3年（1151年）には、かつて金の朝廷から姓を賜った人々に対し、本姓に戻すようにという詔が下され、これに応じて耶律元宜と名乗るようになります。

海陵王の伐宋戦と造反の企て

正隆6年（1161年）、海陵王が南宋への侵攻を開始すると、元宜は神武軍都総管として従軍します。数万の騎兵を率いて大名路を進軍し、前鋒として淮河を渡河した橐皋において、数万の宋軍と激戦を繰り広げました。激戦の末に和州に到達し、宋軍の夜襲を撃退、追撃戦では数万の敵兵を斬首するという大きな戦果を上げます。この功績により、銀青光禄大夫・浙西道都統制に昇進し、金牌と衣服を授けられました。

しかしその頃、金の都である東京遼陽府では、世宗が挙兵していました。故国を世宗に抑えられてもなお、海陵王は性急な進軍を要求したため、軍内部には海陵王に対する不満が高まり、造反を企てる者が現れるようになります。猛安の唐括烏野が「前方に淮河が立ちはだかり、このままでは我々は捕虜になる。遼陽では新しい皇帝が即位したと聞く。我々は北に帰還したい」と訴えると、元宜は腹心である王祥の意見を待つように答えました。元宜は密かに王祥を呼び寄せ、綿密な策を練り上げます。そして、率いてきた軍勢に対し「明日は皇帝の命令により、必ず河を渡る」と告げました。将兵たちは怒り、不満を募らせましたが、元宜が計略を明かすと、皆は納得しました。

海陵王暗殺と世宗への帰順

11月27日（西暦12月15日）の黎明、元宜は王祥、武勝軍都総管の徒単守素、猛安の唐括烏野らと共に軍勢を率い、渡河する代わりに海陵王の本営を襲撃しました。当初、宋軍の襲撃と勘違いした海陵王でしたが、すぐに自軍の反乱であることに気づき愕然とします。副使の大慶山が逃亡を勧めましたが、海陵王は逃げられないと悟り、迎え撃つことを決意します。しかし、大量の矢が降り注ぎ、延安少尹の納合斡魯補の刀によって命を落とし、その遺体は衣服に包まれて焼却されたといいます。

この戦いで、海陵王の寵妃であった花不如、尚書右丞の李通、浙西道副統制の郭安国らが捕らえられ処刑されました。夜が明けると、元宜は左領軍副大都督事に任じられ、南京（開封府）にいる太子少師の訛里也に海陵王弑逆の報を伝え、完顔光英（海陵王の皇太子）をも殺害させ、大軍を率いて帰還しました。

都に帰還後、大定2年（1162年）の春に元宜は世宗に謁見し、平章政事に任じられ、冀国公に封ぜられます。玉帯と共に完顔姓を再び授けられ、完顔元宜と名乗ることを許されました。

その後

その後、秦州路において、海陵王時代の強制的な徴兵が原因で発生した契丹族の反乱鎮圧に尽力します。忠勇校尉の李栄を派遣して反乱を起こしていた窩斡を説得しようとしましたが、李栄は殺害されてしまいます。その後、中央に召喚され引退し、程なくして自宅で亡くなりました。没年は定かではありませんが、『金史』世宗本紀には大定4年（1164年）4月に「平章政事完顔元宜罷」と記されており、この頃には政界から引退していたことがわかります。

大定25年（1185年）には、元宜の子である習涅阿補が符宝祗候に封ぜられます。この時、「賜姓は元宜一代限り」という詔が下されたため、習涅阿補は旧姓である耶律を名乗ることとなりました。

海陵王の暴虐は目に余るものでしたが、皇帝を殺害するという行為はやはり問題視されたようで、完顔元宜の伝記は「逆臣伝」の中に収録されています。『金史』の逆臣伝は皇帝を殺害した人物の伝記で占められており、編者も『春秋』の故事を引き合いに出して、海陵王が熙宗を殺害した報いが、自身が元宜に殺害されるという形で返ってきたことを嘆いています。海陵王が殺害されてから53年後には世宗の子である衛紹王が殺害されますが、元宜自身は殺されることも処刑されることもなく、天寿を全うしました。

脚注

注釈

出典

参考文献

『金史』巻132 列伝第70

関連項目

采石磯の戦い

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