宏智正覚

宏智正覚（わんし しょうがく）は、中国宋代に活躍した禅僧であり、曹洞宗に属しています。彼は隰州隰川県の出身で、天童正覚（てんどうしょうがく）という別名でも知られています。多くの弟子を抱え、その一派は宏智派として知られるようになりました。正覚は、特に黙照禅という坐禅の形態を重視し、それを正統な禅のあり方として提唱しました。

黙照禅とは

正覚が提唱した黙照禅は、坐禅そのものが目的であるという考えに基づいています。彼は、仏性が本来すべての者に内在していると捉え、坐禅を通して自己の内なる仏性に気づくことこそが悟りへの道だと説きました。この考え方において、特別な修行や公案を用いることは必須ではなく、静かに坐ることで自己の内面を見つめることが重要視されます。正覚は多くの詩偈を通じて、この黙照禅の思想を表現しました。

大慧宗杲との対立

正覚の禅のあり方は、臨済宗の僧侶であった大慧宗杲（だいえ そうこう）と激しい論争を引き起こしました。宗杲は、公案を用いて思考の限界に挑戦し、その疑問を抱えながら坐禅することで、言語を超えた悟りに至るという「看話禅」を主張しました。正覚は、この宗杲の禅法を批判し、あくまでも坐禅そのものに価値を見出す黙照禅の優位性を主張しました。

この論争は、当時の中国社会における禅宗の動向に大きな影響を与えました。宗杲の看話禅は広く支持を集め、臨済宗は隆盛を極めましたが、曹洞宗もまた、その独自の禅法を守り続けました。この二つの禅宗の対立と発展は、後の日本にも伝わり、栄西や道元といった留学僧によって、それぞれ公案禅と只管打坐（しかんたざ）という形で受け継がれました。現在でも、これらの禅の形態は、日本の禅宗において重要な位置を占めています。

正覚の思想は、その後の曹洞宗に大きな影響を与え、黙照禅は曹洞宗の禅の根幹をなすものとして今日に至っています。彼の教えは、坐禅の本来の意味を問い直し、自己の内面を見つめることの大切さを教えています。

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