大慧宗杲

大慧宗杲（だいえそうこう）

大慧宗杲（1089年 - 1163年）は、中国の宋代に活躍した臨済宗の禅僧です。諡号は普覚禅師、仏日大師とも称されます。字は曇晦、号は妙喜・雲門。俗姓は奚氏。彼は、公案（禅問答）を用いて悟りを目指す「看話禅」を確立した人物として、禅宗史において重要な位置を占めています。

生涯

大慧宗杲は、宣州寧国県（現在の安徽省）に生まれ、16歳で出家しました。当初は洞山道微や泐潭文準に師事し、その後、東京（現在の河南省開封市）の天寧寺で兜率従悦に学びました。後に、圜悟克勤のもとで悟りを開き、その法を継承しました。1137年、臨安（現在の浙江省杭州市）の径山能仁禅院（径山寺）の住持となり、看話禅を広く説きました。

看話禅の提唱と黙照禅批判

大慧宗杲は、公案を用いて自己の内面を深く探求する看話禅を提唱しました。特に、「趙州無字」の公案を重視し、言葉や思考を超えた悟りの境地を目指しました。彼は、曹洞宗の真歇清了が提唱する「黙照禅」を批判しました。黙照禅は、坐禅そのものが目的であり、特別な悟りを目指さない禅法です。大慧宗杲は、この黙照禅を「只管打坐」として批判し、看話禅こそが真の禅であると主張しました。この対立は、当時の禅宗界に大きな波紋を呼び、大慧宗杲の理論が多くの支持を集めました。

流罪と復帰

大慧宗杲は、その名声から時の権力者である張九成に帰依されましたが、政争に巻き込まれ、衡山（現在の湖南省衡陽市）や梅州程郷県に流罪となりました。しかし、流罪中も『正法眼蔵』を著すなど、禅への情熱を失うことはありませんでした。69歳の時に許されて径山に復帰し、看話禅を更に発展させました。

影響

大慧宗杲は、径山の他に阿育王山（現在の浙江省寧波市）にも住し、多くの弟子を育成しました。彼の教えは、天子や士大夫にも支持され、門弟は2千人を超えたと伝えられています。看話禅は、大慧宗杲の死後も臨済宗の主要な実践方法として受け継がれました。

真の禅法を巡る対立

大慧宗杲は、曹洞宗の宏智正覚と真の禅法を巡って激しく対立しました。彼は、公案によって思考を突き詰め、その先にある悟りを目指すことを重視しました。一方、宏智正覚は、坐禅そのものに価値を見出し、特別な悟りを求めない禅法を説きました。この対立は、臨済宗と曹洞宗の禅の違いを明確にするものとして、後世に大きな影響を与えました。大慧宗杲の看話禅は、当時の中国社会で広く受け入れられ、臨済宗が大きく隆盛するきっかけとなりました。

日本への影響

大慧宗杲の禅は、日本の禅宗にも影響を与えています。南北朝時代の臨済僧である中巌円月は、東陽徳輝を通じて大慧宗杲の法を受け継ぎました。現在でも、大慧宗杲の思想は禅の実践において重要な位置を占めています。

著作

大慧宗杲の著書には、『大慧語録』や『大慧武庫』などがあります。特に『大慧語録』は30巻にも及び、大蔵経に収録されています。これらの著作は、大慧宗杲の禅思想を理解する上で貴重な資料となっています。

参考文献

中村元他『岩波仏教辞典』岩波書店、1989年。
「大慧宗杲」『日本大百科全書(ニッポニカ)』
「大慧宗杲」『世界大百科事典 第２版』
「看話禅」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』

関連情報

禅林墨跡

外部リンク

『大慧宗杲』 - コトバンク


この文章は、大慧宗杲の生涯、思想、そして彼が禅宗に与えた影響について詳細に解説しました。彼の看話禅は、禅の実践方法に大きな変化をもたらし、後世の禅に大きな影響を与えたことが理解できるでしょう。

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